人材育成は「指導者の変革」から始まる スペイン・ビジャレアル流育成術の画像1
※画像:『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(小学館刊)

 サッカー2020-21シーズンのヨーロッパリーグを制覇したのは、スペインのビジャレアルCFだった。決勝の舞台ではマンチェスター・ユナイテッド相手に緊迫した試合を展開し、PK戦にもつれ込んだ結果、初優勝を決めた。


 ビジャレアルのヨーロッパリーグ優勝は快挙だ。スペインのラ・リーガでは3強(バルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー)に次ぐ、中堅グループに位置づけられている。ただ、それ自体もホームタウンとする町の規模からすれば十分な健闘と言えるだろう。


 ビジャレアルの人口は約5万1000人。そんな小さな町のクラブチームが、国内に留まらずヨーロッパを舞台に活躍している。これは多くのサッカークラブチームにとって勇気づけられる事実だ。

 

■「育成のビジャレアル」が指導改革に乗り出す


 では、ビジャレアルの凄さはどんなところに特徴付けられるのだろう。


 その答えの一つは「育成」だ。ビジャレアルのカンテラ(育成機関)は、ヨーロッパやスペインで最も堅実であると評されている。2019-20シーズンはトップチーム25選手のうち、11人がカンテラ出身だった時期もあり、移籍が当たり前のトップリーグにおいて、これは特筆すべき数字である。


 そんなビジャレアルの育成のメソッドを明かした一冊が、日本で話題になっている。サッカー指導者の佐伯夕利子氏が執筆した『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(小学館刊)だ。


 佐伯氏はスペイン初の日本人女性監督で、2008年よりビジャレアルと契約した。もともと育成に定評のあったチームだが、さらに一段上のコーチングメソッドを構築しようと、2014年から指導改革に乗り出し、トップチームを除く18カテゴリーと女子や知的障がい者チームのコーチ約120人が、人格形成を軸足に置いた指導を追求した。その一人が佐伯氏である。


 どういうチームにしたいのか、どういうクラブにしたいのか。どういう指導者になりたいのか。どういう選手であってほしいのか。指導者たちはそうした問いをディスカッションしながら決めていく。そうして「選手のあるべき姿」の定義を、実に10か月かけて言語化していったという。

 

■自分の指導を内省することで初めて分かったこと


 この指導改革は抜本的なものだったようだ。たとえば、自分たちの指導を振り返ろうという目的のもと、コーチにウエラブルカメラとピンマイクをつけて記録をする。こうして撮影された映像をみながら、コーチ同士で互いに指摘をし合う。ここから自分たちのリフレクション(内省)が進み、多くのコーチが自分の指導を見直していった。


 佐伯氏は、自分自身の指導を振り返り、自分が思っていたことと違うアクションをとった選手に対して、ほぼ何も考えずに声かけをしていたと述べる。つまり意図なくメッセージを発信していたという。


 「そんなことに気付かないまま、長年指導してきたことに気づかされるたびに、顔から火が出るような思いでした」(p.39より引用)と佐伯氏。


 そこから指導のやり方は変わっていく。メンタルコーチのサポートを受けながら、冷静に見直していくような作業を続ける。そして、自分の言動を振り返る習慣が生まれ、発する言葉を意識して選ぶようになったり、選択肢を増やすようになったり、自然に言葉の仕分けをするようになったという。

 

■ビジネス、教育…「指導」にあるところに本書あり


 指導は自分自身を見直すことから始まる。この方法はビジネスや家庭における私たちにも通じることだろう。


 指導というと、「こういう声かけをすべきだ」「こういう言葉でモチベーションを高める」といった方法論が先行してしまいがちだが、そこに自分を振り返る作業はない。自分はどんな意図をもってその言葉を発していたのか、もっと突き詰めれば自分の指導の「クセ」を知ることがまずスタートなのではないか。自分を振り返ることの大切さを本書ではまず教えてくれる。


 さらに、本書ではどんな風に選手たちを育成しているのか、そのメソッドが紹介されている。「問いかけ」の大切さであったり、フィードバックの仕方、そして「何も言わない」「教えない」というメソッド最大の特徴など、「目から鱗」とも言えるような内容が詰まっている。


 そこにあるのは指導の本質であり、その前提としてまずは指導する側の意識が変わらなければ、同じことの繰り返しになってしまう。指導者として相手にしっかりと向き合っているか、相手のことを知ろうと努力しているか、相手が必要としているものは何なのか分かっているか…。


 サッカーでの選手育成に留まらず、「教育」全体に広げて読むことができる一冊だ。(金井元貴/新刊JP編集部)


※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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