新しい投資商品としてNFTが話題になっています。デジタルアートや音楽、写真から動画まで、コピーしやすいデジタルコンテンツに対して本物であることを認めるのがNFTです。NFTはブロックチェーン技術でその真贋が守られるので安心だというのですが、その一方で「わかりにくい」ともいわれています。
とはいえ「NFTによって認証されたツイッター創業者の世界初のツイート」というよくわけがわからない商品が3億円超で落札されるなど、世間にはNFTに対する認知が広がっています。子どもが夏休みの宿題で作ったピクセルアートが380万円で売れたというニュースが話題になるなど、やや過熱気味のNFT市場、これからいったいどうなるのでしょうか?
NFTを一過性のブームだと勘繰る向きもありますが、実はNFTにはデジタル商品の未来を良い方向に変える大きな可能性があります。今回の記事では、その「良いほうの可能性」について語ってみたいと思います。「デジタルなんていくらでもコピーできるから、NFTなんて価値がないよ」と思うかもしれませんが、そうでもないという話です。
おもしろい「デジタル著作権の未来」
たとえば音楽CD。コピーしたものを手に入れられることは、みんな知っていますが、好きなアーティストの音楽について違法ファイルと公式なCDが売られていたら、多くの人は公式なCDを買います。その理由は、違法ファイルはNGだという社会ルールがきちんと広まっているからです。
最近だとCDを買わずに音楽はダウンロードで買うようになりました。実用的な違いはないはずですが、違法な海賊版サイトからではなくアマゾンやアップルからダウンロードするのが当たり前だと私たちが考えるのも、社会全体のルールとしてそれが正しいと考えているからです。
さて、ここで電子書籍を考えてみます。アマゾンで電子書籍を買うのは便利ですが、実は紙の本と比べて不便な点がひとつあります。読み終わったときに古本屋に売れないのです。アマゾンで買う電子書籍はその利用料を支払っているわけで、実は所有権を買ったわけではありません。
しかし、論理的には中古として転売可能な公式の電子書籍があってもいいかもしれません。それを可能にする技術がNFTなのです。音楽ファイルでも電子書籍でもデジタルアートでもミュージックビデオでも、デジタルならなんでもいいのですが、その所有権を認め、かつそれを他人に譲ったとしても公式商品であることを認める技術がNFTなのです。
さらに技術的におもしろい点は、NFTなら二次流通に対しても印税を設定することができます。つまり古本が転売されても著者には印税が入るようにすることができるので、その意味ではNFTが普及することによって紙の本よりもおもしろい「デジタル著作権の未来」が待っているかもしれません。
ゴッホは生涯で1枚しか絵が売れなかったといわれています。もしゴッホの時代にNFTがあれば、つまり二次流通に対しても印税が得られる仕組みがあったとしたら、印象派の画家の子孫はみんなビリオネアになっていたことでしょう。言い換えると、これからの未来はそういう時代になるかもしれないという話で、サザビーズでアートが高額で落札されるたびに、アーティストの手元にその数%が入ってくるような設定が技術的には可能なのです。
イベント業界とスポーツ業界に好機?
さて、現実的にはNFTが広まることで儲かるようになるのは、デジタルコンテンツの世界よりもイベント業界とスポーツ業界のほうが先ではないかといわれています。
いいかえると、デジタルコンテンツの業界では特に新たにNFTを導入しなくても、すでにデジタルコンテンツをビジネスとして流通させる方法が確立しています。しかし音楽業界でもCDやDVDを発売するような大手の音楽出版社と比べて、インディーズの弱小アイドルグループの収入源は限られています。
CDの手売りやダウンロードだけでは収入にならないのでライブイベントを行うのですが、それもライブチケットだけでは黒字にならないので、会場で必死にタオルやペンライトやチェキを売るわけです。すでにタオルならいっぱい持っているファンも、応援する意味で2000円のタオルを買うのですが、この商習慣がNFTを使うともっと前向きなものに変わりそうです。
たとえば、アイドルグループがファンと一体になったライブの瞬間瞬間を以前のTikTokをイメージしたような60秒の動画に切り取り、そこにNFTを付与してファンに売ることができるようになります。タオルを買うかわりに自分が参加したライブの「自分とアイドルが一緒にいたあの時間」をNFTとして2000円で購入するような仕組みです。
「そんなの公式DVDを買えば全部観られるじゃないか」と思うかもしれませんが、それはそれで別の話で、60秒だけの動画を繰り返し観るのはそれとして楽しいと思います。カメラだってライブ収録のものとはセッティングや角度の違うものをスタッフが手に持ってファン目線で撮影したり、アイドルがウェアラブルカメラで自分目線で撮影したりすれば、公式DVDとはさらに違う商品として、NFTで認証された一瞬に価値を感じてもらえるはず。
そうなってくれば、これまで商品化されていなかった「アイドルのあの一言」「イベントでの歴史に残るあの失言」「メジャーリーガーのホームラン」「欧州リーグでの決定的ゴール」など、その瞬間を切り取った動画や音声ファイルに新たな経済価値が生まれる可能性が出てきます。
ここがNFTの興味深い点で、NFT市場が拡大してくれば、そこにどんどん新しいビジネスチャンスが生まれるということなのです。
ヤフオクが参入
さて、とはいえ今のところはNFTはまだまだ黎明期です。そこで次に、どうすればNFTを買えるのか、そしてどうすれば自分のデジタル商品をNFTとして売れるのかについても簡単にお話ししましょう。
NFT商品はNFT専門のプラットフォームで売り買いされます。街角で簡単に売れるわけではありません。理由はブロックチェーンの技術を内包していなければ発行も売買もできないから。その関係で、もともと仮想通貨を扱っていた取引所がNFTにまず手を広げ始めています。
ちょうど今ですと「OpenSea(オープンシー)」というプラットフォームが世界で一番メジャーなNFT売買サイトだと思われます。たとえばあなたがいい写真を撮ったとします。インスタに上げたら結構バズったのでこの写真には価値があると考えたとしましょう。安心してください。それをオープンシーでNFTにしたうえで簡単に売ることができるのです。
手順をはしょって解説すると、まずはオープンシーに口座開設をして、取引用の仮想通貨であるイーサリアムを手元に少し買っておいて(これは入金のためのイーサリアム口座をつくる意味として必要な手順です)、それでサイト内に書かれてあるしかるべき手順を踏めば、あなたの撮った写真をNTF商品としてオープンシーで売ることができるようになるのです。
とはいえ説明が英語だったり決済に使えるのが仮想通貨だったりと、素人にとっては今のNFTのプラットフォームは敷居が高いことも事実でしょう。そこでグッドニュースなのですが、この冬、「ヤフオク!」がいよいよNFTに対応することを発表したのです。
繰り返しになりますが、自分が写した写真とか、自分で作成した動画などをNFTとして販売するにはブロックチェーン技術が必要です。ヤフオクの場合はヤフーと同じZホールディングス内のLINEグループがブロックチェーン技術を提供する形になるそうです。まだサービスの詳細発表はこれからですが、サービス開始時には私たちはヤフオク内で日本語で自分で簡単にNFTをつくって売買することが可能になりそうです。
市場が形成されるためにはまず慣れることと、一定数の人が集まってくることが大切なのですが、ヤフオクの参入で日本のNFT市場は、まずこの問題がクリアされることになりそうです。
ということでこの冬、日本でもいよいよNFT市場が本格的に離陸しそうな気配だというニュースでした。新しいビジネスチャンスに期待しましょう。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)