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【対談】沖田臥竜×藤井陽人

なぜ「藤井陽人」という役者は人気連ドラの主要キャストに名を連ねたのか

構成=編集部
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当サイトの連載陣のひとり、作家の沖田臥竜氏が原作を務めるドラマ『ムショぼけ』(朝日放送、テレビ神奈川)がいよいよ最終回を迎える。長年の刑務所暮らしから社会復帰した主人公(北村有起哉さん)の生き様を、個性豊かな登場人物たちとの関係性とともにユーモアと切なさを交えて描かれる話題作。そんな作品の中で、板尾創路さんや木下ほうかさんといった超個性的な脇役陣に挟まれつつも、彼らに引けを取らない独特の存在感を発揮している役者がいる。世間的にはまだ「無名」でありながら、主人公の同僚である「シゲ」役を好演した藤井陽人(ふじい・あきと)さんである。

いったい彼は何者なのか? なぜ、このドラマのメインキャストの一端を担えたのか? その答えのキーとなるのが、沖田氏の存在だという。そこで今回は2人に揃ってもらい、無名の役者が芸能界でキャリアアップしていくための「リアル」を語ってもらった。

なぜ「藤井陽人」という役者は人気連ドラの主要キャストに名を連ねたのかの画像1
取材を受けるのも人生初という藤井陽人さん

「端役でどんなにいい演技をしても、役者の価値は磨かれない」

――藤井さんは、俳優歴12年。これまで名前もないような端役が多い役者だったそうですね。それが、今回の『ムショぼけ』では主人公の弟分的な重要な役どころを務めました。言ってみれば、いきなりの大出世。何があったんでしょうか。

藤井 本当に人生とは、どこに運命的な出会いやチャンスが待っているのかわからないと思いました。ここにいる沖田さんが、藤井道人監督の映画『ヤクザと家族 The Family』の監修をしていて、自分は端役でその映画に出ていたので、撮影現場でお会いしたことが始まりでした。

沖田 自分は、『ヤクザと家族』がきっかけで藤井監督と意気投合したんだけど、監督とシゲ――彼の当時の芸名が「重岡」だったので、今でも「シゲ」と呼んでるんです――が飲み仲間だったところから、シゲとも親しくなりました。役者としては目が出ていない存在だったけど、人柄もいいし、人間として見込みがあるから、その人間力を活かせば、まだまだ上に行けると思ったので、いろいろアドバイスするようになって。

藤井 沖田さんに教わったことは、簡単にいえば、映画やドラマでいい役をもらうには、ひとりの人間として認めてもらえないとダメということ。自分は、もともとは岡山でダンスをやっていて、もっと表現の幅を広げたいと思って、22歳で役者を志して上京しました。そこから、養成所に通って、事務所に入って、オーディションを受けて……という道を歩んできました。養成所にかかわっていた舘ひろしさんに目をかけてもらって、そのツテで俳優系の事務所に入らせてもらったのですが、簡単に仕事をもらえるほど甘くはなかったですね。

――当然、端役をやっているだけでは食べられない?

藤井 ギャラはもらえますが、1回の仕事で2000〜4000円という感じです。100作前後は出演してきたと思いますが、ただ、それを続けていても役者としてステップアップしていくことはなくて。

沖田 数秒の出演時間しかない端役でどんなにいい演技をしても、役者の価値は磨かれないんですよ。監督が「あの端役の演技がいいから、次はもっといい役で使おう」なんてことはまずならない。どんなに実力があっても、端役から脇役、さらにメインキャストへのキャリアアップは難しい。やはり、監督やプロデューサーなど影響力のある人間との関係性を築く。端的にいえば、政治力で起用してもらうように働きかけないと。つまり、実力+政治力。それはどんな世界も一緒ですよ。

藤井 自分も、これまで積極的に監督さんとかと飲みに行こうとか意識はしてましたが、そこ止まりというか。仲良くなれば、いい仕事がもらえるかななんて思いましたが、そんなに甘くはなかった。向こうからしたら、飲み友達の一人ってところで終わってしまってたのかなと。藤井道人監督ともそんな感じでした。ただ、沖田さんからは、その関係を飛び越えていかないとダメだと厳しく教わりました。その人にとって、特別な存在にならなければと。

沖田 このサイトの連載コラムでも書かせてもらいましたけど、自分もかつては組織で出世できたのは、まずは見返りを求めず、利他的に動けたから。これは業界やジャンルにかかわらず、人間社会の真理です。相手のために汗を流して、相手からの感謝が、自分を高みに押し上げてくれるんです。それをまずは実体験としてわかってもらおうと、自分もシゲとの関係性を徹底的に深めたし、シゲには自分のために公私問わずにめちゃくちゃ動いてもらった。自分がかかわっているYouTubeチャンネルにも何度も出てもらったし、シゲが役者として足りないことを自分なりに教えてきた。それだけがんばってくれるシゲを見たら、自分も動こうとなりますよ。

『ムショぼけ』にて、シゲ役を演じる藤井さん
『ムショぼけ』にて、シゲ役を演じる藤井さん(© ABC)

――そこで、自身が原作を手掛けることになった『ムショぼけ』の主要キャストに藤井さんを起用しようと。

沖田 ええ。『ムショぼけ』は、自分と藤井道人監督の話からできた企画なんですが、3年前に『ヤクザと家族』で初めて会った藤井監督とそこまでの関係になれたのは、まさに公私を超えた付き合いができたから。自分なりに、彼の役に立てることは徹底的にやりました。特に、藤井監督が『新聞記者』で日本アカデミー賞を取って、時の人になってからは面倒なことも起きやすい状況に置かれるじゃないですか。自分はメディア・コントロールの会社もやっているんで、損得勘定なしに彼のために動いたこともありましたね。

藤井 自分のほうが藤井監督とは長い付き合いのはずなんですが、関係性の深さという意味では、沖田さんのほうがあっという間に仲良くなられて。なるほど、人間関係を築くとはそういうことなんだなと。

沖田  『ムショぼけ』をやるにあたって、シゲの役を作ってやろうと最初から決めてました。彼にチャンスをやろうと。いわゆるアテ書きですが、普通、主役クラスにしかやらないですよね(笑)。でも、今回は、シゲのためにアテ書きしましたよ。役名も最初から「シゲ」に決めてました。

藤井 本当にありがとうございます!

沖田 自分は特別なことをやってるわけじゃない。芸能界では当たり前のこと。キャスティングに影響力のある芸能プロやプロデューサー、作家などに気に入られて、引き上げられた人間がいい役どころにつく。もし、自分がシゲの立場なら、2年あれば、綾野剛や山田孝之といったSクラスの俳優になる自信はありますよ(笑)。どんな端緒でも強引につかんで、主役への道を手繰り寄せますから。大事なのはフットワーク、柔軟性。実際に自分は物書きとして、はじめて小説を出版してから数年で、地上波ドラマの原作者になることができた。ある意味、Sクラスに上り詰めらたわけで、シゲだろうが、誰だろうが、そのチャンスはあるということをわかってほしいんです。

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