ビジネスジャーナル > 社会ニュース > コロナの起源、中国の抵抗で闇の中へ
NEW
藤和彦「日本と世界の先を読む」

コロナの起源、中国の抵抗で闇の中へ…新たなパンデミックへの対応に重大な支障

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
中国・武漢ウイルス研究所
中国・武漢ウイルス研究所(「Wikipedia」より)

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まって2年が経過した。見つかったきっかけが2019年12月末の中国・武漢市の海鮮市場での集団感染だったことから、ここで売られていた野生動物が感染源であり、これを介してヒトに感染するようになったと当初は考えられた。しかしその後、新型コロナの最初の発症は12月8日であり、この海鮮市場とはまったく関連がないことが判明している。

 新型コロナは名前の通りコロナウイルス科に属するウイルスだ。02年に中国から世界へと広がったSARSコロナウイルスや12年にサウジアラビアで発見されたMERSコロナウイルスはどちらもコウモリが宿主だった。SARSの場合はハクビシンが、MERSの場合はヒトコブラクダが中間宿主となってヒトに感染した。新型コロナも宿主はコウモリだとされているが、世界の科学者たちが中間宿主を血眼になって探しているにもかかわらず、現在に至るまでその動物を特定できていない。

 このため「ウイルスは人工的につくられたのではないか」との疑惑が浮上していた。バイデン大統領の求めに応じて、米情報機関は今年8月末に新型コロナの起源に関する報告書をまとめた。「新型コロナがバイオテロのために開発されたウイルスである可能性はない」と結論づけたものの、「コウモリなどの動物からヒトに感染した」説と「研究所から流出した」説のどちらが正しいかは判断できないという内容だった。

武漢ウイルス研究所のDBにアクセスできず

 筆者は中国・武漢ウイルス研究所から流出した可能性が高いと考えている。新型コロナに最も近いとされているのはRaTG13ウイルスだ。遺伝子情報が新型コロナと96.2%一致しているからだが、このウイルスは武漢ウイルス研究所の石正麗氏らがネイチャー誌で「中国・雲南省の鉱山のコウモリから見つかった」と報告している。遺伝子情報は極めて似ているものの、3.8%分の変異が自然界で生じるためには数十年の期間を要することから、新型コロナの直接の起源とはいえない。

 武漢ウイルス研究所はコウモリが保有するコロナウイルスとSARSウイルスの合成ウイルスをつくってヒトの細胞への感染性を評価する、いわゆる機能獲得実験を行ったことも公表していた。武漢ウイルス研究所はバイオセーフティーレベル(BSL)4の基準をクリアした中国初の研究機関だが、この危険な実験を安全管理レベルが格段に低いBSL2の研究室で行っていた。安全管理の意識が低かったといわざるを得ない。

 武漢ウイルス研究所が実施した機能獲得実験に米国国立衛生研究所(NIH)の資金が提供されたことも明らかになっている。今年9月に米インターネットメディアがスクープ報道し、NIHの高官もこの事実を認めるに至っている。

 前述の石氏は昨年2月、「新型コロナは武漢ウイルス研究所から流出したウイルスの可能性がある」と述べたが、その後4カ月にわたり公の場から姿を消した。石氏は昨年6月に復帰したが、それ以前に認めていた事実をすべて否定した。だがネイチャー誌等に掲載された彼女の過去の発言は動かぬ証拠だ。

 今年10月、ラオス北部に生息するコウモリから新型コロナに酷似するBANAL-52ウイルスが見つかった。遺伝子情報が新型コロナと96.8%一致しており、雲南省で採取されたRaTG13ウイルスより高い数字であることから、新型コロナの起源だと注目された。劣勢に立っていた自然発生説が息を吹き返したかと思われたが、11月に入ると「このウイルスのサンプルが17年6月から19年5月の間に研究のために武漢ウイルス研究所に送られていた」事実が明らかになっている。

 武漢ウイルス研究所は2万2000にも及ぶコロナウイルスのデータベースを持っているが、19年9月からこのデータベースにアクセスできない状態が続いている。

バイオ技術の進歩は「諸刃の剣」

 新型コロナにより世界では500万人以上の尊い命が失われ、パンデミックは今でも続いている。新型コロナの新たな変異株(オミクロン株)の出現も問題となっているが、「感染力は高いものの重症度が低いとされるオミクロン株が新型コロナのパンデミックを収束させるのではないか」との期待も出ている。「重症度が低く感染力の強い株がより重症度の高い株を急速に駆逐する」のは過去のウイルスの進化のパターンであり、重症度の低いオミクロン株がデルタ株に置き換われば、新型コロナは季節性のインフルエンザに近いものになるとの理由からだ。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないが、パンデミックが終焉すれば、新型コロナの起源への世界の関心は薄れることは間違いない。この問題に大きく関わる中国、そして米国の対応が現状のままでは真実は永遠に闇の中だ。だが、それでは次のパンデミックを防ぐことができないのではないだろうか。

 新型コロナのワクチン開発に携わったサラ・ギルバード英オックスフォード大学教授は12月6日「将来、新型コロナよりも感染力や致死率の高い感染症のパンデミックが起きる可能性がある」と警告を発した。

 近年のバイオ技術の長足の進歩のおかげで、私たちは極めて短期間で効果の高い新型コロナのワクチンを手に入れることができた。だがバイオ技術の進歩は「諸刃の剣」だ。ウイルスの遺伝子組み換えなどの技術が非常に普及しており、極めて危険な実験を行っているのは武漢ウイルス研究所だけではないだろう。次のパンデミックも自然由来ではなく、人工ウイルスによって発生する可能性が高いと思う。

 今回の事例を教訓にして次のパンデミックを防ぐためには、世界各地の研究所の管理を独立した国際的な公的機関に委ねる仕組みを早急に構築することではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

コロナの起源、中国の抵抗で闇の中へ…新たなパンデミックへの対応に重大な支障のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!