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ゴルフ場最大手アコーディア、なぜファンドのマネーゲームの道具に?翻弄の連続

文=編集部
アコーディア・ゴルフ
アコーディア・ゴルフのサイトより

 ソフトバンクグループ(SBG)傘下の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループは、国内ゴルフ場最大手のアコーディア・ゴルフ(東京・品川区、非上場)を買収する。アジア系投資ファンド、MBKパートナーズが売り手だ。数カ月以内に買収を完了する。買収額は非公表だが4000億円規模とみられている。

 売却の対象になっているのはアコーディア・ゴルフと、MBKが2019年、オリックスから買収したネクスト・ゴルフ・マネジメント(東京・品川区)。両社合わせて1都2府32県に169のゴルフ場と27の練習場を運営し、運営施設数で国内第1位だ。年間延べ1000万人以上が利用し、従業員数はパート・アルバイトを含め1万1600人である。

 MBKは2017年、東証1部に上場していたアコーディアをTOB(株式公開買い付け)で完全子会社にして上場を廃止した。当時の買収額はアコーディアの負債を含めて1500億円。19年になってオリックス傘下のゴルフ場運営会社を買収し、持ち株会社を設けて一体運営してきた。

 MBKは当初、アコーディアの再上場を視野に入れていたとみられるが、資金の回収を速めるために新たな買い手を探す方針に転換した。8月に実施した1次入札には複数の外資系ファンドが参加。米ブラックストーン・グループや米フォートレス・インベストメント・グループなど4社が2次入札に進み、最高値を提示したフォートレスが落札した。

 持ち株会社のアコーディア・ゴルフ(望月智洋社長)の第1期決算公告(21年3月期)によると総資産は2581億円、株主資本は781億円。推定されている買収価格4000億円だとすると総資産の1.5倍、株主資本の5倍に相当する。

 フォートレスは1998年の設立。2017年にSBGの子会社になった。全世界で不動産や不動産関連企業に総額1000億ドル以上を投資しているという。日本では宿泊・観光事業のマイステイズ・ホテル・マネジメント(東京・港区)を2012年に取得。ウィークリーマンションの運営会社だった同社を、日本最大級のホテル運営会社に成長させ、これまで契約交渉中のものを含めて159のホテルを手に入れている。

 20年3月、みずほフィナンシャルグループ系の不動産・ホテルのユニゾホールディングスに対して実施していたTOBは不成立に終わった。22年4月には日本郵政から、かんぽの宿29施設を譲り受ける予定になっている。169のゴルフ場と159のホテルが連携することで、新たなサービスを行うことができるとしている。

アコーディアの生々流転の歴史

 アコーディアの歴史は生々流転。さまざまなファンドに翻弄されてきた修羅場だった。アコーディアの起源は1981年、群馬県藤岡市で設立されたゴルフ練習場に始まる。バブルの時代にゴルフ場運営会社の日東興業が買収したのが跳躍板(スプリングボード)になった。当時はバブル期の乱開発でゴルフ場が供給過多となっていて、バブル崩壊とともに、全国のゴルフ場の経営破綻が相次ぎ、日東興業は97年に和議を申請して、事実上、倒産した。

 米ゴールドマン・サックスが経営が破綻したゴルフ場を安く買い集め、規模のメリットを生かして低コストでゴルフ場を運営することを計画する。2002年、ゴールドマンが日東興業を買収。03年、社名をアコーディア・ゴルフに変更し、同社を通じて次々とゴルフ場を手に入れた。06年、東証1部に上場。投下した資金を回収すべく、11年、ゴールドマンは保有株を売却した。

乗っ取りの渦中でお家騒動

 アコーディアの秋本一郎専務が12年4月17日、都内で記者会見し、竹生道巨(ちくぶ・みちひろ)社長によるコンプライアンス(法令順守)違反を告発した。竹生社長は日東興業時代に米国のリビエラCCの副社長兼総支配人など、数々の名門ゴルフ場で支配人などを歴任し、03年からアコーディアのCEO(最高経営責任者)、05年に社長になった。一方、秋本専務は日東興業からゴールドマン・サックスに移り、アコーディアの取締役最高ゴルフ場運営責任者となり07年から専務。経営陣のお家騒動が勃発した。

 12年1月25日、東証1部上場のゴルフ場運営会社、PGMホールディングスの臨時株主総会が開催され、神田有宏氏が新社長に就いた。アコーディアの取締役執行役員を務めていた人物が最大のライバルであるPGMのトップに座ったのである。神田氏はゴールドマンでゴルフ場買収の陣頭指揮を執ってきた。その実績が評価され、アコーディアに取締役として派遣されたが、11年5月、ゴールドマンとの提携解消を機にアコーディアの取締役を退任していた。

 PGMはゴールドマンと競ってゴルフ場を買収してきた米投資ファンド・ローンスター傘下のゴルフ場運営会社である。127コース(12年3月末)を持つ国内2位だった。ローンスターは11年11月、PGMをパチンコ・パチスロ機械大手の平和(東証1部上場)に売却。平和がライバル企業であるアコーディアの取締役だった神田氏をPGMの社長に招聘したのである。

 07年、パチスロ機メーカー、オリンピア(東京・台東区、非上場)の石原昌幸会長が平和を買収した。石原氏はアコーディア株の3.1%、オリンピア株を1.9%を保有する大株主(11年9月末現在)。石原氏がアコーディアの前取締役の神田氏をPGMの社長に起用した意図がみえてくる。アコーディアの買収だったのではないのか。

村上ファンドが参戦

 平和の子会社PGMとアコーディアの壮絶バトルの第1ラウンドは12年6月28日に開催されたアコーディアの株主総会で繰り広げられた。プロキシーファイト(委任状争奪戦)の結果、2日間に及ぶ前代未聞のマラソン総会となり、会社側が勝利した。

 第2ラウンドはPGMによるアコーディア株のTOB(株式公開買い付け)。買い付け期間は12年11月15日から13年1月17日まで。この時は旧村上ファンドのレノが参戦し、大量の株式を買い占めてキャスティングボードを握った。「PGMとの経営統合に向けた交渉の場に着くことと、自社株買いを行うこと」を要請する文書をアコーディアに送り、「イエス」ならPGMのTOBに応募しないが、「ノー」ならTOBに応募すると通告した。

 アコーディアの回答は「イエス」。レノがTOBに応募しなかったため、PGMのTOBは成立しなかった。

焦土作戦で買収を阻止

 壮絶バトルは最終局面を迎えた。アコーディア側は焦土作戦に打って出た。ゴルフ場を売却してPGMの買収意欲を削ぐのが狙いだった。国内企業のM&A(合併・買収)で焦土作戦が採られるのは、この時が初めてだったとされている。

 アコーディアは14年6月27日、東京都内で定時株主総会を開いた。PGMによる買収を撃退したものの、レノがTOBに応募しない条件としていた「PGMとの経営統合に向けた(前向きの)交渉」と「自社株買い」への対応など、重い宿題が残っていた。

 レノにお引き取り願うための作戦の立案が急務となった。保有する133のゴルフ場のうち90コースを特別目的会社(SPC)に1117億円で売却した。SPCはシンガポールに組成したREIT(不動産投資信託)のアコーディア・ゴルフ・トラスト(AGT)にゴルフ場を譲渡。AGTがシンガポール証券取引所に上場するというスキームである。

 これ以外にも、大和証券グループの大和PIパートナーズから新株予約権付ローンで200億円を調達。普通株に転換して大和PIはアコーディア株式の16.75%を保有した。ゴルフ場を切り離すことでPGMに買収を諦めさせることが第一の眼目だった。レノには持ち株を高値で売却してもらい、お引取りを願う。

 そして、最後にアコーディアは大和証券グループの傘下に入るというシナリオだった。株主総会で一連の議案の賛成が得られたことから、14年8月、AGTはシンガポール証券取引所に上場を果たした。

誤算の数々

 アコーディアの経営権を握った大和証券グループにとって、最大の誤算だったのはレノが450億円の自社株買いを実施してからも、一部の株式を売却しただけで大株主として残ったことだ。アコーディアの経営陣にプレッシャーをかけ続けた。

 レノとの関係を断ち切るため大和証券はアコーディアにMBKを紹介した。MBKは16年末にアコーディアに友好的TOBを行い、レノの持ち分18.9%を含む全株式を取得。17年1月に完全子会社にし、同年3月に東証1部の上場を廃止した。

 MBKはアコーディアの再上場によって投下資金の回収を目指す。アコーディアは20年6月、シンガポール証券取引所に上場しているREIT、AGTから日本のゴルフ場88カ所を618億円で買い戻した。ゴルフ場の土地をも保有することになったゴルフ場運営会社のアコーディアをMBKはソフトバンクグループ系の米投資ファンドのフォートレスに、推定4000億円で売却したことになる。MBKは高値で売り抜けることに成功したことになるのだろう。

 フォートレスは投資ファンドである。MBKと同様、数年後にはアコーディア株を売却して資金を回収するとみられる。アコーディアはファンド間で転がされるマネーゲームのカードという宿命を背負い続けることになるわけだ。

(文=編集部)

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