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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

妻が年収100万円超えてでも社会保険に加入すべき5つの大きなメリット

文=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー
パート妻の「年収の壁」問題
「Getty Images」より

 6つの「年収の壁」を抱えるパート主婦の働き方と社会保険に加入すべき理由についてご紹介している今回のコラム。後編では、実際にどれくらいの年収で働く妻が多いのかから見てみよう。

年収150万円未満が半数以上を占める

 このような状況のなか、現状としてパート妻の年収はどれくらいなのだろうか? 総務省「2018年家計調査」によると、100万円未満が30.9%と最も多くなっている。さらに、100~149万円19.3%、150~199万円8.2%、200~299万円14.1%、300~399万円9.7%、400~499万円9.7%、500万円~699万円5.8%、700~999万円2.2%となっており、150万円未満が半数以上を占めている。やはり、「年収の壁」を意識して働き方をセーブする妻が多いということか。

 ただ、年別に見ると、2013年は100万円未満が35.6%、100~149万円19%、150~199万円8%、200~299万円12.8%となっており、100万円未満は減少。年収が少しずつ増加していることを踏まえると、徐々に年収の額にかかわらず働く女性が増えてはいる。

負担が増えても社会保険に加入する5つのメリット

 そこで、筆者が最もお伝えしたい、年収106万円あるいは年収130万円を超えて働くこと。つまり社会保険に加入するメリットについてご説明しよう。主に次の5つが挙げられる。

(1)健康保険の「高額療養費」の限度額が下がる

 高額療養費は、病気やケガをして高額な医療費がかかった場合の力強い味方ともいえる公的制度だが、所得と年齢に応じて限度額が設けられている。

 例えば、年収120万円のパート妻A子さんが、医療費として月額7万円の支払いを1年間したとしよう。年額84万円である。高額療養費は、夫の扶養に入っている場合、世帯主である会社員の夫の月収で判断される。そのため、70歳未満で一般的な収入(370~770万円)の場合、約9万円を超えないと適用にならない。A子さんの夫の年収は600万円のため、60万円の負担はそのままだ。

 それが、A子さんがあと10万円分パートを増やして、130万円になり、社会保険に加入したとする。前編の試算の通り、A子さんは年額約18万6,000円の社会保険料を支払わなければならない。しかし、A子さんの年収から、高額療養費の限度額は5万7,600円に引き下げられる。つまり、8万円から限度額を差し引いて2万2,400円が戻ってくる。

 さらには、高額療養費が1年間で3回以上該当すれば「多数回該当」が適用になるため、4回目から限度額のハードルはさらに下がり、4万4,400円になる。これによって、加入前と加入後の医療費負担の差額は26万7,600円になり、社会保険料を支払っても8万円以上プラスになる。

<加入前>7万円×12カ月=84万円

<加入後>57,600円×3回+44,400円×9回=57万2,400円

<差額>26万7,600円>18万円6,000円

 A子さんの治療が2年目以降も続くようなら、その効果はもっと大きくなるはずだ。

(2)働けなくなった場合に「傷病手当金」が受けられる

「傷病手当金」とは、健康保険に加入している本人が受給できる公的な所得補償制度である。入院せずに自宅で療養していたとしても、病気やケガが原因で働けない状態であれば対象になる。受給額は、1日につき標準報酬日額の3分の2。ざっくり言って、A子さんの毎月の給与が10万円なら、1カ月丸々休んで給与が出ない場合、約6.6万円が受け取れる(実際には、ここから社会保険料などが差し引かれる点には注意すべし)。

 支給される期間は、1つの傷病につき最長1年6カ月。仮に、1年間、6.6万円が支給された場合、約80万円となる。しかも、税金はかからない。

 なお、支給される期間については、2022年1月以降、「傷病手当金の支給期間の通算化」の改正によって、使い勝手が良くなる。これまでは、実際に受給した期間とは関係なく、支給を開始した日から1年6カ月後に受給期間が終了となっていた。これが改正後は、断続的な取得であっても通算して1年6カ月まで取得できるようになる。

(3)勤務先の「付加給付」が利用できる

 A子さんは120万円→130万円のケースだが、106万円でも同じこと。しかも、106万円で社会保険に加入が義務付けられているのは、今のところ大企業が中心だ。

 大企業に勤務する会社員が加入する「健康保険組合(組合健保)」には、法定給付に加えて独自の上乗せがある「付加給付」の制度を設けていることが多い。先ほどの高額療養費の限度額以上に、付加給付の限度額はハードルが低く、例えば1カ月の医療費が2万円を超えた分はすべて戻ってくるといった手厚い内容のものもある。傷病手当金についても、1年6カ月に加えて6カ月などと上乗せされる。

 パート先が子会社の場合、親会社の福利厚生をそのまま流用しているケースもあるので、確認をしてみよう。

(4)自身の年金が増える

 専業主婦あるいは夫の扶養の範囲内で働く妻は、国民年金の第三号被保険者になる。ここから外れて、社会保険料を支払いようになると、第二号被保険者として厚生年金に加入することになる。専業主婦の場合、65歳から受け取れる年金は老齢基礎年金のみ。第二号被保険者になることで老齢厚生年金も上乗せされる。

 老齢厚生年金は収入に応じて金額が変わるので、劇的に増えるわけではないものの、ちゃんと自分名義の年金が増える。その上、一定の障害状態に該当した場合には、障害年金も受け取れる可能性があるなど、公的保障が格段に手厚くなることは間違いない。

(5)iDeCoの活用メリットが広がる

 老後資金のために「つみたてNISA」をやっている人も多いだろう。これ以上に税制優遇の恩恵を受けられるのが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」である。専業主婦も利用可能だが、そもそも、税金を支払っていなければ、優遇すべきもの(税金)自体ない。

つみたてNISA」は、配当や運用益が非課税になるだけだが、それに加えてiDeCoの掛金は全額所得控除となり節税効果が高い。2022年5月以降、加入可能年齢が60歳から65歳に改正される。「今から始めても遅いのでは?」と思っていた人には朗報だろう。

30代後半から40代の女性は検討する価値は大

 このように、社会保険に加入するメリットは非常に大きいのだが、とくに強くお勧めするのが30代後半から40代の女性だ。というのも、この年齢は、まさに子宮頸がんや乳がんの罹患リスクが高まる年齢だからである。

 がんは、高齢になればリスクが高くなるので、50代でも状況は同じ。ただ、30代、40代といえば、子どもがまだ小さい、住宅ローンを抱えている、収入・貯蓄がそれほど多くない年代に該当する。ここで病気になった場合、医療費だけでなく、働けなくなった場合の収入減の影響は多い。

 病気やケガに備えて、医療保険やがん保険に加入している人も多いだろうが、家計を握る妻は、節約のため自分の保障は後回し。一家の大黒柱である夫や子どもの保障を優先させがちだ。しかも、これだけの保障を民間保険で備えようとすれば、どれほど保険料がかかることか。想像もつかない。

 男性の育児休業が取得しやすくなる「育児・介護休業法」の改正が2021年6月の国会で成立した。2022年4月以降、育児休業を取得しやすい雇用環境整備を義務化やパートやアルバイトなどの有期契約労働者の育児・介護休業取得要件を緩和、男性による出生時の育児休業取得可能な制度の新設などが行われる。

 まさに、時代は「夫は内(家)へ、妻は外へ」となりつつある。妻の働き方に夫の協力は欠かせない。妻が働くことで、夫に家事や育児の負担が増えると、これまで二の足を踏んでいたご家庭も、ご夫婦そろって前向きにご検討いただきたい。

(文=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー)

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
https://www.naoko-kuroda.com/

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