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70年続いた売春街の灯火が消えた「かんなみ新地」は今【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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現在のかんなみ新地
現在のかんなみ新地

 えらく更正してしまったではないか。わずか数カ月前までは、この場所で1万円さえあれば俗にいう「本番」を若い女の子がやらせていたなんて、ウソのような光景だった。年が明け、関西有数の色街として知られた「かんなみ新地」を取材しての感想だ。

 以前報告した通り【参考記事:「 売春を続けてきた『かんなみ新地』が閉鎖」】、かんなみ新地では、70年にもわたって灯り続いてきた風俗街の灯りが昨年暮れに消えた。沖縄出身のおばちゃんがオーナーを務めていた店などは、「ソーキそば」をメインにした立ち飲み屋に鞍替えし、正真正銘の飲食店になってしまっていたのだ。

 それまでは、ここでは飲食店というのは建前であった。かんなみ新地の店鋪で火事や事件など起これば、マスコミは、その現場を飲食店と報じていたのである。報じるほうも見るほうも、そこが赤線と呼ばれる新地の風俗店であることを、警察も含め、誰しもが理解していた。つまり、違法状態が黙認されていたのだ。

 10年以上前になるが、私は、破廉恥な野郎どもであふれかえるかんなみ新地を見て、ここに屋台を出せば儲かるのではないかと商売をしたことがある。それゆえこの場所については、それなりに精通しているし、不条理さも味わった。当時、キャベツ焼きの屋台を出すと、半年ほどで食品衛生法違反で摘発されたのだ。その際、私はだいぶんと文句は言った。

 「なんで、キャベツ焼きで摘発されて、本番やらせてる店はええねん!」

 若かったというよりも無知であった。ただそのときも、それはそれ、これはこれ、と何かが変わることはなかった。

 それが昨年のコロナ禍で、緊急事態宣言の解除を待ち切れずに、さも飲食店かのように風俗店を開けてしまった。そして、各地から客が集まってきた。密集回避やらソーシャルディスタンスやらといわれる中、風俗店に大量の人を引き寄せるようなことをしてしまったらどうなるか。住民からの苦情は殺到し、行政も司法も重い腰を上げねばならなくなるのは当然だ。暴力団であれ、エロであれ、国家権力には勝てないのである。また勝ってはいけないからこそ、秩序が保たれるのである。これは道理ではないだろうか。

社会の発展とともにふるい落とされる文化や風習

 エロで思い出したが、数年前、都内のホテルのラウンジで、大手出版社の重役と会食していたときのことだ。大物芸能人たちの写真集や告白本を数多く手掛けてきたことで知られるその人物は、私にこう言った。

「沖田さん! これからの時代はエロですよ。日本のエロがアジアに通用するんですよ!」

 興奮した口調の相手に、わたしは赤面しながら黙って下を向いていた。なぜならば、そのホテルのラウンジはセレブ感満開の人々であふれてかえっていたからだ。そもそも、この重役は、ちょうどその頃、Netflixのドラマ『全裸監督』が話題になっていたので、その影響を受けていただけと思う。今となっては、

 ――何がエロだ、バカヤロウ! かんなみ新地も潰れたではないか! ――

 といっても詮無いことだ。エロのビジネスや文化なんて、権力のさじ加減でどうにでもされてしまう。まして、日本よりエロ表現に厳しいアジア諸国は多くある。日本のエロが海外の表舞台で通用するかどうかは、コンテンツやサービスの内容以前の問題だ。

 余談は続くが、同じそのラウンジで大手芸能プロダクションの役員と会ったこともあった。今ではそのプロダクションも代替わりし、その役員も辞め、私の電話すら出なくなった。彼との付き合いは、一言でいえば散々であった。そもそもは、そこに所属していた不祥事タレントを芸能復帰させるために会ったのがスタートだった。

 結論からいえば、あの手この手と駆使したが無理だった。このタレントに対する世間の逆風がいかんともしがたかったのだ。ただ、事務所サイドは私には感謝はしていた。なぜならば、ある元人気グループのメンバーがその事務所と契約しようとしているという話が業界内で広まった際、私は信頼できるルートから入手した情報をもとに、そのタレントに薬物疑惑があることをいち早くその役員に教えてあげたのだ。「社長には、沖田さんからの話だと伝えてもよいですか?」と言われ、「かまわないですよ」と応えた。事実、その後、某スポーツ紙がそのタレントの薬物疑惑を匿名ながら大々的に報じた。彼女と所属契約を棚上げしていた事務所は安堵していたようだ。

 それだけではない。当時のその事務所の社長とそれこそ、先に触れた『全裸監督』のモデルが揉めに揉めたときも、少しばかり暗躍し、大事にならないようにしてあげた。であれば、感謝くらいされて当然だろう。「接待させてください!」「もしも自分が会社を辞めた時は、全部の人脈を持って沖田さんところにぼくは行きますよ!」まで言っておきながら、その役員は事務所を辞めると決めると連絡も取れなくなり、それっきりである。芸能界とはそんなものなのか。

 どうでもよいことを思い出してしまったが、今回のかんなみ新地の取材の最中、見知ったおばちゃんと出くわした。わたしは「どうなん? 大丈夫なん? やれてんの?」と声をかけた。

「なんとかね~」

 もうそこには、手練手管で客引きをしていた、やり手ババアといわれた彼女はいなかった。

 時代は変わっていくし、社会や文明は発展していく。そして人々は豊かになってきたのだ。だが一方で、ふるい落とされる文化や風習などもある。そうした古き灯が消えていくことに一抹の淋しさを覚えるのも確かだろう。昔の縁日などは、祭囃子に笛太鼓といった賑わいに心が踊ったものだが、そんなものにも規制のメスが入ってきているのも事実だ。

 そうした世の中が息苦しいとはまでは言わないが、いつの時代も声高に正義を叫ぶ人間たちのお陰で、時代を彩ってきた馴染みのものが消滅し、叫んだ人間側も自らの首を絞めたり、心の豊かさを奪う結果になっている部分はあるのではないだろうか。

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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