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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

不適切販売から3年…かんぽ生命、営業ノルマ主義脱却、画期的な新医療特約が話題

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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かんぽ生命の資料

 4月1日、かんぽ生命は新医療特約「もっとその日からプラス」を発売しました。新規業務にかかわる上乗せ規制が届出制に移行してから初の新商品となりましたが、日本郵政による株式の保有比率の低下は、かんぽ生命にとってどのような意味を持つのでしょうか。また、2019年に発覚した不祥事とはどのようなもので、対策は進んだのでしょうか。かんぽ生命に聞きました。

――昨年5月の自己株式の取得等により、日本郵政の議決権保有割合が50%を下回りましたが、これは新商品開発においてどのような意味合いがあるのか、教えてください。

かんぽ 日本郵政の議決権比率が50%を下回ったことで、新規業務にかかわる上乗せ規制は、内閣総理大臣および総務大臣による認可制から事前届出制に移行し、当社の経営の自由度、特に商品戦略面における自由度が向上しました。「もっとその日からプラス」は届出制に移行後の新商品の第一弾として発売いたしましたが、今後も、あらゆる世代のお客さまの保障ニーズに応えるための商品開発に取り組んでまいります。

――新医療特約のお客さまの評判はいかがですか。

かんぽ 新商品CMやお客さまへのご案内活動等を契機に新医療特約にご興味・関心をいただいたお客さまから、多くのお問い合わせをいただいております。特に手厚くなった入院一時金の保障内容を詳しく知りたい、死亡保障を抑えて医療保障を手厚くしたいといったご相談を多くいただいております。

お客さま体験価値を最優先とするビジネスモデルへ転換

――いくら新商品の評判が良くても、世間では「かんぽ生命は不祥事を起こした企業」というイメージが根強く残っています。

かんぽ 当社の募集品質にかかわる諸問題により、お客さまをはじめとするすべてのステークホルダーの方々に、多大なるご迷惑、ご心配をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。創業以来の危機を招いたことを重く受け止め、新規契約獲得に偏重した指導・管理、また適正募集に向けた対応や取り組みに改善すべき点があったと反省しております。今後は、お客さま本位の業務運営を徹底し、お客さまから真に信頼される企業へと再生するとともに、お客さま体験価値を最優先とするビジネスモデルへ転換することを目指してまいります。

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筆者作成

――表をみると、どれも契約者の信頼を裏切るものだとは思います。無保険者になった方や保険料の二重払いをされていた方などに、その後、どのような対応をされたのですか。

かんぽ  特定事案調査、深掘調査という能動的な調査に加え、全てのご契約者の方へ謝罪の手紙を送付し、ご契約に疑問を感じる方にはお申し出をいただくようにご案内を行いました。ご契約調査に関しては、お客さま都合によるもの等を除き、すべての対応を完了しております。今後も恒久的に、ご契約内容の確認活動等、さまざまな機会を通じてお客さまの声をいただく取り組みを行い、ご加入の生命保険を通じてお客さまのお役に立てる活動を続けてまいります。ご契約に関して少しでも疑問を感じる場合は、最寄りの郵便局やコールセンターにお問い合わせをお願いいたします。

【コールセンター】

かんぽ生命 問い合わせ・相談・苦情 0120―552―950(ここに きこう)

ご高齢のお客さま専用 0120―744―552

※高齢者専用は、お問い合わせにゆっくりと丁寧に応対する

「再生」と「持続的成長」

――貴社は21年5月に掲げた中期経営計画のなかで「再生」と「持続的成長」の2本の柱を打ち出し、22年4月から新体制になりました。しかしながら、信頼回復が実現できたとは言いがたいなかで、同じことが繰り返されるのではないかと不安を払拭できないお客さまも少なくありません。

かんぽ 21年度にスタートした中期経営計画では、かんぽ商品の不適正募集問題を踏まえた反省や、新型コロナウイルス感染症の感染拡大などの大きな社会的環境の変化を十分に踏まえ、これまでの事業戦略とはまったく異なり、新しく、そして抜本的な変革を盛り込んだ計画としています。2019年6月以降の募集品質にかかわる諸問題によって、お客さまへの営業活動を2年近く行うことができない状況が続いたことから、まずは生命保険会社としての本来あるべき姿、すなわち「質を伴った営業をしっかりと実施できる状況」に「再生」していくことが何よりも重要であると考えています。

今年4月からは、日本郵便のコンサルタントが当社に兼務出向し、かんぽの社員として活動する新しいかんぽ営業体制が始動しました。この新体制では、すべてのお客さまへのコンタクトの質、量、頻度を高めることにより、お客さまとの真の信頼関係を構築しながらお客さまの数を拡大し、かんぽ生命として再生していきたいと思います。

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――お客さまがお知りになりたいのは、契約時に不利益を被らないためのチェック体制が改善されたかどうかです。

かんぽ お申込みから契約締結までの重層的なチェックを実施しております。外形上、募集品質に懸念のある申込みについては、「募集事前チェック機能」による確認を実施するとともに、募集人の管理者及びかんぽの専用コールセンターによるお客さまへのご意向確認、更には引受審査時のかんぽのサービスセンターによるご意向確認を行うことで、適正な募集管理体制の確立に努めています。

――質の高いコンサルタントを育成しなければ、再生は絵に描いた餅で終ってしまいませんか。

かんぽ 多様化するお客さまの保険ニーズにお応えするには、高いレベルの専門性やノウハウが求められます。そこで、日本郵便のコンサルタントには、「保障を提案できる能力」をさらに向上していただく目的で、当社に出向していただくこととしました。当社は、コンサルタントを全面的にサポートする体制をつくり、コンサルタントには「保障を提案できる能力」をさらに高めていただきたいと思います。

 たとえばアポイントの取得方法やヒアリングの仕方等、課題は社員によって異なります。企業価値を向上するためには、マネジメントの成長を土台として、人材の成長とマーケットの成長を図っていく必要があると考えておりますので、社員の活動をしっかり見て、課題を共有し、一緒に課題解決を図ってまいります。

数字だけを追い求める営業に決して戻らない

――不祥事の背景には、ノルマも問題になりました。ただ、保険業界全体として数字の大きい人が評価されていることは否めません。貴社はそこに風穴を開けたそうですが。

かんぽ 2022年度は新契約と契約継続の両面を評価する保有契約の純増を観点とした目標を新たに導入するとともに、アフターフォローや募集品質などの活動を評価する目標を設定いたしました。以前のように数字だけを追い求める営業に決して戻らないという決意のもと、結果だけではなく、結果に至るまでのプロセスも重視したマネジメントを推進してまいります。

――バッシングはいまだにある一方で「業界を先行する」と注目されているのが、完結型ビジネスモデルです。どんなものなのでしょうか。

かんぽ 郵便局等における新規契約の申込みや保全・保険金請求等の各種手続きにおけるデジタル化、ペーパーレス化等を進め、そうした手続き時にカスタマーサービスセンターの専門スタッフがオンラインで同席し、お客さまからのご質問に答えることなどにより、その場で完結する簡便な手続きの実現を目指しています。これらの徹底したデジタル化や手続きのその場完結化の促進は、バックオフィス事務の効率化にもつながると考えています。

――消費者ニーズの多様性や業種を問わず、いろいろなサービスが世に出てきて、保険会社は商品だけを発売すればいいという時代から変革する時期に来ているように思います。貴社はどのようにお考えですか。

かんぽ 近年、消費者動向等が大きく変化しており、多様化するお客さまのニーズに的確に応えていくには、既存のサービスだけでは困難な状況がございます。当社は、中期経営計画に「お客さまの生活によりそうサービスの提供」を掲げており、サービスの提供を通じて、当社のお客さまを含めた社会が直面している社会課題の解決を目指していきます。お客さまに当社をより身近に感じていただき、さらなる信頼を構築できれば、企業価値は向上し、会社全体の収益の改善にもつながると考えています。

 社会課題は、さまざまなものがございますが、まずは、終活や相続に関するサービスの検討を進めております。コンサルタントの知識習得や資格(社内認定資格の活用など)の取得に向けた研修、ツール等の準備を実施するとともに、終活・相続に関するより深い内容のご相談を受けられる専門チームを社内に整備し、自社で対応する幅を広げることで、多くのお客さまにご利用いただける体制とします。

おわりに

 かんぽ生命の再生を「穴が空いた泥船の出航」とたとえた人もいます。その穴を埋めながら、かんぽ生命は世間という荒れ狂う海に乗り出しました。信頼回復のために経営陣以下全社員が一丸となれるかどうか、その本気度にかかっていることは間違いありません。全国津々浦々にいらっしゃるお客さまのためにも、“どん底からの生還”を願うばかりです。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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