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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラと指揮者の関係は超繊細…コンマスとの仲がコンサートの成否を決める

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
オーケストラと指揮者のデリケートな関係
オーケストラと指揮者は超繊細な関係(「Getty Images」より)

オーケストラのリハーサルを見学するのは、あまり好きではありません。気持ち良く演奏を聴いているのに、急に指揮者によって中断されて、指揮者は何かこそこそとコンサートマスターと話をしたりして、なんだかわからないうちに演奏が再開されるので、釈然としないんです」

 これはオーケストラのリハーサルを聴きに来ていた、親しい人物からの言葉です。

 このコンサートマスターとの“こそこそ話”ですが、オーケストラのリハーサルでは、言葉は最後の最後に交わされるもので、ほとんどの場面では、指揮者は指揮棒一本でさまざまな要求を伝えていきます。オーケストラの楽員も、実際に自分が出す音や目配せ、ちょっとした合図等で音楽をつくっていくので、実際に言葉を交わすのは最後の最後、どうしてもうまくいかない場面が多くなります。

 そんななかでのコンサートマスターとの“こそこそ話”ですが、実は結構シビアなやりとりも多いのです。遠くから見ていると、コンサートマスターは和やかな雰囲気で指揮者と会話をしているように見えますが、時には指揮者としての資質を問われるような質問も出てきます。

 たとえば、「この場所なのですが、少しずつ遅くしますか?」といった質問に何が隠されているのか、読者の皆様はわからないと思います。確かに音楽的な確認もありますが、「ここは遅くするのは変ですよ」という抗議が含まれている場合もあります。そこで指揮者がにこやかに、「遅くはなりません」などと言おうものなら、コンサートマスターだけでなく周りの楽員も「でも、指揮は遅くなるように見えているよ」と厳しい目線を送ってきます。

 反対に「その通り。遅くします」と言ったとします。それが、遅くするのが音楽的におかしい場所だと、「あの指揮者、本当に音楽がわかっているのか?」と、たった一つの受け答えで、オーケストラ全体の信頼感を失ってしまう可能性もあります。

 それが、このコンサートマスターとの“こそこそ話”なのです。

 もちろん、「ボーイング(弓の使い方)をどうしようか?」といった質問や、音の長さ、音符の間違い確認等、実務的な会話がほとんどで、コンサートマスターとの会話が常にギスギスしているわけではありません。むしろ、指揮者にとっては、コンサートマスターを味方にするかどうかが、オーケストラとの関係の明暗を分けると言ったほうがいいくらいで、こちらに好感を持ってくれているコンサートマスターとの仕事は、これほど気持ちの良いことはないのです。

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5:30更新
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