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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

音大の授業、想像と全然違った…逃げ場ない説教部屋状態、ドラマは取材せず制作?

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
ドラマの音大の授業シーン、実際とは全然違う
「Getty Images」より

 指揮のレッスンについて、多くの方はイメージすらもわかないかと思います。

 一方、ピアノヴァイオリンのような楽器であれば、容易に想像できるでしょう。たとえば、まず先生から「次はこの曲を練習してきてね」と言われ、次のレッスンまで自宅で一生懸命練習します。そして先生の前で課題を実際に演奏すると、「全然弾けていないじゃない。練習してないでしょう」などと言われたりして、トボトボとレッスン室を後にすることもありますが、「こう弾いたほうが音楽的だよ」「指使いはこうやったほうがいいです」と言いつつ先生自らがお手本の演奏をするというのが、通常のレッスン風景です。

 ちなみに、音楽のレッスンは基本的にマンツーマンです。テレビドラマで、大部屋にピアノ科の学生がたくさん集って先生の前で一人ずつ演奏するといったシーンを見たことがありますが、実際には10畳くらいの防音のために窓も無いような小さな部屋の中にどっしりと座っている先生の目の前で、一人で演奏します。テレビ制作者が音楽大学のレッスンを知らなかったのか、なんとか取材できたのが、著名な外国人特別講師による公開レッスンくらいだったのでしょう。

 マンツーマンは、ただでさえ緊張するにもかかわらず、十分に練習できていない状態でレッスンに出かけていく場合などは、恐怖の時間となるでしょう。レッスン室が、完璧な防音設備で外部に音が漏れることもない、逃げ場のない説教部屋と化すのです。

指揮のレッスン事情

 反対に指揮は、大人数でレッスンを受けることがあります。これはオーケストラの存在が前提となる指揮の特殊性に要因があります。先生とマンツーマンの状態で、オーケストラなしに指揮を振っているだけでは、指揮棒が空気を切る音を立てるだけで、レッスンにはなりません。

 欧米では、指揮のレッスン用のオーケストラがある音楽大学もあります。また、優秀な指揮学生対象の夏の講習会はオーケストラを指揮できることがほとんどで、実際にオーケストラを指揮したい指揮者の卵たちが大勢応募してきます。ただ、指揮学生のためにオーケストラを雇うとなると、大きな費用がかかってくることが難点です。

 仮に、全員が音楽学生のアルバイトだったとして、小さい規模のオーケストラを編成するために40名くらいの奏者を3時間雇うとしても、日本の大学生の平均的なバイトの賃金(約1000円)で計算すると、一回のレッスンのために12万円もかかってしまいます。実際には、学生であっても演奏家は専門職なので、バイト賃金はもっと高くなり、ますますレッスンごとにオーケストラをつくることなど難しくなります。

 僕が留学していたウィーン国立音楽大学でも、当時から指揮科だけに特別にお金がかかってよいのか、という論議がありました。実際に、毎回大きな予算がかかるオーケストラを用意するのは難しく、オーケストラを指揮できるレッスン日は、すべての指揮科学生が同じ部屋でほかの生徒の指揮を見ながら自分の順番を待ち構え、一人5分から長くとも10分くらい指揮をして、先生の指導を受けてどんどん交代していく、といった光景が繰り広げられていました。

 とはいえ、指揮科だけのためにオーケストラを用意できない音楽大学がほとんどですし、ウィーン国立音楽大学でも、通常のレッスンでは2人のピアニストにオーケストラ曲を弾いてもらってレッスンを受けることがほとんどでした。2人のピアニストであっても演奏をぴったりと合わせることは結構難しく、「音が合っていない」と先生に叱られながらレッスンにいそしむのです。

 しかも、まだ指揮のレッスンを受け始めたばかりで、三拍子や四拍子の指揮の仕方すらもやっとわかった程度の生徒のために、オーケストラのメンバーを何十人も集めることは無駄であるだけでなく、ある程度指揮を勉強した学生でなければオーケストラも大混乱に陥って演奏自体できなくなってしまうので、レッスンにもなりません。しかも、ほとんどの音楽大学の指揮科には、専属のオーケストラは用意されていないので、指揮科の学生は、、いつかオーケストラを指揮することを夢見ながら、ピアノ2台の前で先生にしごかれることになります。

大富豪の御曹司だった名指揮者、異次元の生活ぶり

 ところが、19世紀前半に活躍した作曲家で、指揮者としても大成したメンデルスゾーンの場合は、驚くほどに恵まれていました。彼が10歳になって間もない頃、ドイツで銀行家として大成功した父親から、彼の音楽を自作指揮するためのオーケストラを、なんと自宅の大広間に用意されていたのです。そのような状況下、今もなお演奏されることも多い美しい作品が、少年メンデルスゾーンの指揮で、どんどん演奏されていたのです。

 そんな彼は、作曲家としてだけではなくドイツの名門ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者としても大名声を得ることになりました。ちなみに、メンデルスゾーンは、当時は斬新だった指揮棒の使用を始めた指揮者としても有名です。

 メンデルスゾーンは大富豪の父親から、まるで子供にピアノを買い与えるようにオーケストラをつくってもらったわけですが、上には上がいます。それはイギリスの指揮者、1879年生まれのトーマス・ビーチャムです。

 このビーチャムは、イギリスの有名な製薬会社ビーチャム製薬の御曹司でした。実は今もなお、イギリスの薬屋に行けば、「ビーチャム」とメーカー名が書かれた薬が店頭にたくさん並べられています。彼は自分の好きな音楽を指揮するために、父親の援助を受けてプロのオーケストラ、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団をつくったのです。

 その後、ビーチャム自身も指揮者として売れ出し、アメリカでの仕事が多くなったのをきっかけに、ロンドン・フィルを簡単に手放してしまうのも、苦労の無いお坊ちゃんらしいところです。さらに、ロンドンに帰った際には、再び自分が好きなように指揮ができるようにロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団をつくってもらい、活躍を続けました。

 ビーチャム自身は、子供の頃からピアノなどを習っていたとはいえ、専門的な学校での音楽教育を受けたわけではないのですが、才能に恵まれており、いくつかの録音も残っています。もっとすごいことに、父親の莫大な財産を費やして創設したこの2つのオーケストラは、今もなお、世界有数の名オーケストラとして、常に世界中の注目を浴びているのです。

(文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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