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「数少ない日本派の政治家でいい人」田母神俊雄が見た安倍元首相…メールで進言した日

文=小川隆行/フリーライター
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元航空幕僚長の田母神俊雄氏
元航空幕僚長の田母神俊雄氏

 凶弾に倒れた安倍晋三元首相。内閣総理大臣在職日数3188日は憲政史上最長で、アベノミクスや日米同盟の強化など、日本の力を高めるべく奮迅した。

「日本の政治家のほとんどは、日本の国益よりアメリカや中国と仲良くすることを優先するアメリカ派、もしくは中国派です。そんな中、安倍さんは数少ない“日本派”の政治家といえる人でした」と語るのは、元航空幕僚長の田母神俊雄氏だ。

 核武装や歴史認識などの思想を通じて「日本を強くするための政策」を安倍氏と共有してきた田母神氏に、安倍氏との思い出を聞いた。

憲法無効論に「その主張には乗れない」

「最初に出会ったのは、安倍さんが内閣官房副長官だった2000年頃です。当時、私は航空幕僚監部装備部長で、直接の所掌業務ではありませんでしたが、福利厚生など自衛隊の処遇改善を安倍さんにお願いに行ったことがありました。7年後、私は航空自衛隊のトップである航空幕僚長に就任しましたが、任命いただいたのは第一次政権時の安倍総理でした」

 2008年、田母神氏は「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を発表。その中身は、日本という祖国を愛する田母神氏が、戦後のGHQ政策により間違った歴史教育が行われてきたことを問いただす内容だった。

 しかし、「航空自衛隊幹部が政府見解に反する論文を出した」として、田母神氏は退官に追い込まれた。ちなみに、退官当時は麻生内閣だった。

「退官から1年後、退官時にやってもらうことができなかった退官パーティーを自ら開催しました。明治記念館に400人ほどを招待して『1年遅れの退官式』を行ったのですが、安倍さんにもご臨席いただき、ごあいさつをいただきました」

 その後、田母神氏は政治団体「頑張れ日本!全国行動委員会」の会長に就任。政治活動を始めると、安倍氏との付き合いは深まっていった。

「安倍さんとは、何度か食事を共にしました。一昨年、総理を辞める直前には『日本国憲法無効論』を説く私の友人と共に議員会館を訪ね、『現憲法96条の規定に基づく憲法改正は無理だと思うので、国会で無効決議をして新憲法に移行してはどうか』『今の憲法はアメリカの占領下で定められており、国際法的に無効である』という話をさせていただきました。早い話、アメリカに押し付けられた憲法ですね。『その主張には乗れない』と言われましたが、説明は十分に聞いてくれました」

 政治家の中には「こんな陳情は聞けない。早く終われ」という空気を醸し出す人も少なくないが、「安倍さんは最後まで耳を傾けてくれた」と田母神氏は語る。

自民党不支持で戦った都知事選と「昭恵夫人」

 2014年2月、第二次安倍政権時に行われた東京都知事選挙に田母神氏は立候補した。「選挙1カ月半前の12月下旬、自民党の候補者がまだ決まっていなかったので、ひょっとして安倍さんが私を支持してくれれば当選するかも、との思いで、安倍総理に電話で立候補する旨を連絡しました。しかし、1月6日になって、安倍総理から『自民党は田母神さんを支持できなくなりました』と電話で連絡を受けました。その後、自民党の推薦候補者が舛添要一さんに決まったことが発表されました。自民党が支持してくれないのでは当選は無理、と思いつつ無所属で立候補すると、60万人以上の有権者が私の名前を書いてくれました(得票率12%/16人中4位)」

 田母神氏は、夫人の安倍昭恵さんとも何度かお会いしているという。

「5人ほどの仲間と共に一、二度、食事もご一緒しました。昭恵さんが、山口県の支持者が上京したときに使えるようにと作った、神田の居酒屋にも何度か足を運びました」

安倍氏が推進した防衛費倍増と悲願の憲法改正

 田母神氏から見た「政治家・安倍晋三」について話をうかがおう。

「安倍さんの尽力により、防衛費を5年以内にGDP比1%から2%に倍増することが確実となりました。NATOに加盟する30カ国のうち、軍事費がGDP比2%以上の国は8カ国ですが、NATO非加盟国である日本も国防予算を倍増して防衛力を強化することとなります。

 同じく安倍さんが訴えていた憲法改正も、早ければ今年中に議論が始まりそうです。憲法9条の条文に『自衛隊』を明記する、さらには『自衛隊を国軍とする』と変更するべきだと考えますが、岸田内閣がそこまでやれるかどうか……。ともあれ、防衛費倍増と憲法改正は安倍さんの政治思想であり、安倍さんがいなければここまでこなかったと思います」

 このように、安倍氏と田母神氏は「日本を強くする」という点で一致していた。本来、政治家とは自国を第一に考えなければならないが、真に日本の未来を考えている日本派は少ないと、田母神氏は嘆く。

「高市早苗氏、杉田水脈氏、山田宏氏、西田昌司氏、衛藤晟一氏など、少数です。安倍さんは総理を9年近く務め、日本の代表として国際的な知名度も抜群だったため、発言すると世界が注目してくれました。安倍さんと同じように日本を大事にする政治家が総理にならないと、強い日本を取り戻すことは難しいと思います。今の政界を見ると、かなり険しい感じがします」

 逆に、安倍氏の政策について首を傾げたことはあったのだろうか。

「靖国参拝です。総理大臣が戦争で命を落とした先人を慰霊するのは至極当然のことで、中国や韓国の抗議とは別の話です。安倍さんが小泉さんに続いて靖国参拝を継続していれば、今頃、靖国問題は片付いていた可能性があります」

 安倍氏が首相在任中に靖国神社を参拝したのは、2013年12月の一度のみである。

「もう一つ、消費税を5→8%、8→10%と2回上げたのも、日本の経済を停滞させた気がします。ただでさえデフレで苦しむ中、消費税が上がると国民は消費を控えてしまい、景気はますます冷え込んでしまいます。私は経済学者などの意見を聞いて、安倍さんに『私のような素人が言うのも申し訳ないですが、消費税は上げるべきではありません』とメールを打ちました。ごく単純に言えば、市中の金が少ないとデフレ、多いとインフレになりますが、デフレの際は国家が国民に金を供給しなければならないと思います。しかし、税率を上げるというのは、市中から金を回収するということです。デフレのときにやるべきことではありません」

 当時、田母神氏は安倍氏に対して「深刻なデフレにある日本は公共事業を拡大し、また消費税を減額して市中にお金を回すべきだ」と話していたそうだ。

「いい人」だった人間・安倍晋三

 最後に「人間・安倍晋三」についても語っていただこう。

「安倍さんを一言で表すと『いい人』でした。私などの声も聞いてくれるなど、あらゆることに真摯に対応してくれた政治家だったと思います。桜を見る会には、自衛隊退官後も毎年、招待状をいただきました。自衛隊を辞めているので招待されないかな、と思っていましたが……」

 他の政治家とは異なり、バラエティ番組にも多く出演した安倍氏。そのコメントは、時に場を和ませた。田母神氏が語る人柄の通りだ。

 この原稿を書いているさなか、安倍氏の国葬が9月27日に日本武道館で行われることが発表された。最後に、田母神氏に追悼の意を表していただこう。

「安倍さん、お疲れさまでした。日本国民のために尽力されたことは、多くの国民に伝わっています。安らかにお休みください」

小川隆行/フリーライター

小川隆行/フリーライター

ライター・編集者。1966年生まれ。中山競馬場の近くで生まれ育ち、競馬場から徒歩5分の高校時代に競馬に目覚めて馬券買いを始め、ダイナカールに恋をする。拓殖大学卒業後、競馬雑誌編集者になり数多くの調教師、騎手、厩舎関係者、競馬予想家に取材を重ねてきた。主な著書に『アイドルホース列伝 1970ー2021』(星海社)などがある。

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