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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、住宅ローン返済拒否が拡大…相次ぐマンション建設工事中止が国を揺るがす

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「gettyimages」より

 債務危機に陥っている中国の不動産開発大手、恒大集団は7月22日、「同社のCEOとCFOが辞任した」と発表した。両氏が傘下の不動産サービス企業の預金(134億元<約2700億円>の預金)を第三者の銀行融資の担保に流用していた問題に関与していたことが内部調査で判明したことを受けた措置だ。

 約3000億ドルに上る負債を抱える恒大集団は、7月末までに暫定的な債務再編計画を発表する方針だった。苦境にあえぐ不動産業界にとっての重要な前例になることから、恒大集団の債務再編は注目を集めている。恒大集団は「複数の主要債権者との間で基本的な合意に達した」としているが、債権者の多くは債務再編で回収できる金額の詳細をほとんど把握していない。このタイミングでの経営陣の刷新により、事態の不確実性がいっそう高まったといわざるを得ない。

 中国当局が不動産大手の財務への監視を強めた2020年以降、借り入れに頼る拡大策を続けてきた恒大集団は資金繰りに窮し始めた。この問題は同社にとどまらず、中国不動産業界全体に波及し、深刻な不動産不況を招いてしまった。中国経済の4分の1を占めるが、不動産部門の今年上半期の投資額は前年比5.4%減となった。不動産業界の上位100社による今年上半期のマンション販売成約総額は3兆4700億元(約70兆5000億円)と前年と比べ半分の規模となっており、不動産市場の低迷が長引いていることは明らかだ。中国政府は必死になっててこ入れをしているが、「値上がりを続ける」という不動産神話が崩れた現在、不動産不況の出口はまったく見えないといっても過言ではない。

中国の金融システムにも悪影響

 不動産不況のきっかけをつくった恒大集団の再建が遅々として進まないことが災いして、関連業界も苦境に陥っている。不動産企業による代金の支払いが滞っていることから、工事を請け負った企業(サプライヤー)が経営に行き詰まっているのだ。資金繰りに窮したサプライヤーらは「窮鼠猫を噛む」ではないが、銀行ローンの返済を拒む動きに出ている。中国メディアは19日「恒大集団に資材などを提供していたサプライヤーら数百社が同社から資金回収ができないことを理由に『金融機関への返済を停止する』と宣言した」と報じた。

 金融機関が経営不振に陥った不動産企業の「とばっちり」を受ける事例はこれだけではない。中国では各地で「物件が引き渡されていない」ことを理由にマンション購入者が住宅ローンの返済停止を主張する動きが広まっている。中国では新築マンションの竣工前に購入契約を済ませることが多い。入居前から住宅ローンの返済が始まることが通例だ。だが、恒大集団など経営危機に陥った不動産企業が建設工事をストップさせる事例が相次いだことから、マンション購入者の間でかつてないほどの不満が高まっていた。ローンを払っているのにマンションが完成する前に不動産企業が倒産してしまったら元も子もない。

 権利意識に目覚めた都市部の中産階級が物件引き渡しの遅れを抗議するため、「住宅ローンの返済拒否」という自衛手段に出ているというわけだ。中国メディアは「7月中旬までに300カ所を超える案件で返済拒否が確認された」と報じており、中国の民間調査会社によれば、工事の停止で引き渡しが遅れているマンションに関連する住宅ローンは2兆元(約41兆円)に上るという。返済拒否の動きが沈静化しなければ、金融機関の貸出残高の2割を占める住宅ローン全体が不良債権化してしまうリスクが生じてしまう。低迷が続く2兆4000億ドル規模の不動産市場の問題は、今や中国の金融システムにも悪影響を及ぼし始めているのだ。

 中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は21日、「不動産開発企業に売却済み物件の建設を完了させる」と明言したが、具体的な中身については触れていない。銀保監会は未開発物件の完成を後押しするため金融機関に対し不動産企業への融資を促しているようだが、金融機関はこのところ不動産企業への融資に極めて慎重になっている。政府が奨励したとしても事態が改善するかどうかはわからない。

政治不安の火種に

 この問題は社会不安、ひいては政治不安の火種になりうる可能性もある。「支払い拒否」という現象は、中産階級が中国政府に「ノー」を突きつけている表れだからだ。「中国人は豊かになっても民主主義や人権に対する意識は低いままだ」と揶揄されてきたが、なけなしのカネで手に入れた自らの財産(マンション)にもしものことがあれば、話は違う。「懐の豊かさ」を保障することができなくなれば、中国政府の正統性を揺るがす由々しき事態にもなりかねない。「中国の夢」を掲げ、今年の秋に3期目を目指すとされる習近平国家主席にとっては極めて頭の痛い問題だ。

 2010年から18年まで財務次官を務めた国務院の朱光耀参事は18日、「不動産部門がハードランデイングするリスクがあり、開発会社の流動性危機と返済ボイコットを止めるための介入が必要だ」と異例の警告を発した。

 中国政府は最大3000億元(約60兆円)規模の不動産基金を設立し、経営難に陥っている不動産企業数社を支援する計画が浮上している(7月25日付ロイター)が、問題の発端となった恒大集団の再建問題に適切に対処しない限り、泥沼化した不動産市場が再び活況を呈することはないだろう。中国経済が長期にわたって不況に苦しむことになってしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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