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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

日本、実は欧米よりクラシック音楽が盛ん?街中でもCMでも多用されるワケ

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
日本、実は欧米よりクラシック音楽が盛ん?
「Getty Images」より

 日本は世界でもっともクラシック音楽が盛んな国です。

 こう言うと皆さんは意外に思われるかもしれません。僕もしっかりと調べたわけではないので、ほかにもっと盛んな国があるかもしれませんが、日本が世界でも有数のクラシック音楽人気国というのは確かだと思います。

 現在、日本には38の大規模オーケストラがあります。そこに小規模なオーケストラまで加えると、かなり多くのプロオーケストラが活発な活動をしています。さらに、1000以上もあるアマチュアオーケストラまで含めると、これほど多くのオーケストラが演奏している国は正直、日本しかないと思います。

 そのなかでも、やはりオーケストラは東京と大阪に集中しています。たとえば、東京にはオーケストラがなんと9団体もあり、それを東京都の人口で割ると、約145万人につき一団体となるそうです。大阪は4団体なので、220万人につき一団体です。アメリカ・ニューヨークでも、実質的にオーケストラはニューヨーク・フィルハーモニックのみですから、全人口800万人につき一団体となり、名古屋も含めて日本の3大都市圏でのオーケストラの過密ぶりがよくわかります。

 ちなみに、音楽ビジネスが盛んなイギリス・ロンドンでは、世界的に有名なオーケストラが5団体も活動しており、それを人口で割ると160万人につき一団体です。つまり、東京、大阪、名古屋は音楽が盛んなロンドンに引けをとらないどころか、数字だけ見ると東京はそれ以上なのです。

 そんな東京ですが、年間4000回近い演奏会が行われ、約400万人の来場者があるだけでなく、通時は海外の超一流オーケストラの来日公演も目白押しで、世界的なクラシック音楽都市として世界中のアーティストやオーケストラの憧れの場所となっており、東京公演、そして日本ツアーを行うのです。

街中にもテレビCMにもあふれるクラシック音楽

 しかし、僕が日本はクラシック音楽大国だと断言した理由は、多くのオーケストラやオペラ公演があることだけでなく、ちょっとした高級レストランやお店、病院などにもクラシック音楽があふれていることにあります。実は音楽の本場の欧米では、意外とそうでもないことが多く、まったく音楽がないか、あったとしてもポップ音楽がほとんどです。日本では、やはりクラシック音楽は高級感を出すのに最適だと考えられているのだとは思いますが、僕としては、そこかしこにクラシック音楽があふれていることは嬉しく思います。

 テレビをつけると、ドラマはもちろんバラエティ番組でも多用されています。たとえば、バラエティ番組『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)で珍しい風景を紹介するときの音楽は、ムソルグスキーの『展覧会の絵』から『キエフの大門』です。クラシック音楽のなかでも、最高に派手でゴージャスな名曲中の名曲です。数年前、僕が大汗をかきながらこの曲を指揮した際、コンサートを聴きに来ていた僕の子供たちが「珍百景の曲だよね」と大喜びだったと、演奏会後に妻が笑いながら話してくれました。

 テレビCMでもクラシック音楽は大活躍しています。むしろ、最近は以前よりも多く使われているように感じるくらいです。

 胃薬の「太田胃散」のCMとして長年、流れていたピアノ曲も、実はクラシックの名曲です。あまりにも長い間使われていたために、「太田胃散の音楽」と思っている人も多いようですが、ポーランド生まれでフランス・パリで大活躍した18世紀最大のピアノ作曲家、フレデリック・ショパンの大傑作『24の前奏曲集』から「第7番イ長調」です。

 50秒程度しかない短い曲ですが超有名曲で、ピアノ好きならば知らない人はいないでしょう。この曲集は、ショパンが恋人のジョルジュ・サンドと、ゴシップと噂話にあふれたパリから逃げ出して、スペインのマジョルカ島で同棲生活をしていた1839年1月に完成したものです。当時のショパンは肺結核を患っていただけでなく、生涯健康には恵まれなかったので、胃薬とはいえ薬のCMに使われるとは皮肉なものです。

 ほかにも、イギリスの作曲家エドワード・エルガーの『威風堂々』が味の素「Cook Do」、ドイツのヨハネス・ブラームスの『ハンガリー舞曲第5番』が雪印メグミルク「さけるチーズ」など、テレビCMでクラシック音楽は結構多用されています。これは、クラシック音楽の持つ、上品で豪華な感じがする効果を狙っているのでしょう。

クラシック音楽を利用する“もう一つの”メリット

 そして、クラシック音楽を使うことは、もう一つメリットがあると思います。それは、19世紀初頭くらいまでに作曲されたクラシック音楽は、著作権料がかからないことも大きな理由ではないでしょうか。YouTubeの動画サイトでも、バックにクラシック音楽が多用されています。

 しかも、オーケストラ音楽には歌詞がないことも都合が良い場合もあるでしょう。商品によっては、歌詞があると視聴者は歌手の歌詞に注意を取られ、せっかくの商品の印象が薄れてしまうこともあるかもしれません。

 ほかにも、日本では特殊なクラシック音楽の使い方として、栽培中のブドウにクラシック音楽を聴かせると味が濃くなって甘さも増すとして、ブドウ畑でクラシック音楽をかけているブドウ農家や、乳の出が良くなるとして、乳牛にクラシック音楽を聴かせる牧場があるそうです。特にモーツァルトの曲が一番効果的だといわれており、もしかしたら指揮者の僕よりも、毎日聴いているブドウ農家や牧場の方のほうが、モーツァルトをよくわかっているかもしれません。

(文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師)

オーケストラ・ムジカ・チェレステ演奏会
8月21日(日)14時開演 日野わたむきホール虹
ロッシーニ、ベートーヴェン、モーツアルト
指揮:篠﨑靖男、ヴァイオリンソロ:荒井里桜
第25回わたむき合唱祭

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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