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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

蒸し暑い真夏日にぴったりの音楽7選!涼しげな曲から背筋が寒くなる曲まで

文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師
蒸し暑い真夏日にぴったりの音楽7選!
暑い日に涼を得られる音楽は?(「Getty Images」より)

 今年の夏は暑そうですが、そんなときにおすすめのクラシック音楽を紹介しようと思います。

 まずは、イギリスで活躍したドイツ人作曲家、ヘンデルの『水上の音楽』です。名前を聞くだけで涼しそうですが、実際に1717年、イギリス国王ジョージ1世がテムズ河で舟遊びをする際に作曲した洗練された音楽で、身も心も涼しくなります。ところが、作曲したヘンデルは涼しいどころではなく、冷や汗たっぷりだったに違いありません。

 ヘンデルはイギリス・ロンドンに来る直前、ドイツ・ハノーファー選帝侯の宮廷楽長として仕えていました。しかし、勤め始めてわずか2年、ロンドンへ外遊した際に、「これは一旗揚げることができる」と考え、選帝侯からの帰国命令を無視して、そのままロンドンに定住してしまいます。その後、実際にヘンデルはロンドンで大成功するわけですが、まさかの事態が起こります。

 それは、なんと命令を無視したハノーファー選帝侯が、何の因果か、イギリス王ジョージ1世として、ロンドンに移り住んできたのです。イギリスを追い出されるくらいならまだましで、牢獄に一直線となれば、あの恐ろしいロンドン塔に行くことになるかもしれません。

 しかし、そこは立ち回りが上手いヘンデル。大ピンチを乗り越えるための切り札が、『水上の音楽』でした。このジョージ1世の舟遊びのために書いた音楽は、舟の上の新国王を大いに楽しませたと思います。その証拠に、ヘンデルはおとがめ無しで、その後もロンドンで活躍を続けたのです。

 そんなイギリスで、300年後に生まれた作品が、ホルスト作曲の『惑星』です。水星から、地球を除き海王星まで、それぞれに惑星のタイトルを与えられた7曲が、涼しい夏の天体観測のような雰囲気を与えてくれる作品です。

 そのなかでも、もっとも有名な4曲目の『木星』のメロディーは。歌手の平原綾香によって、日本中で有名になった『Jupiter』のオリジナル曲です。それまでもイギリスの愛国歌や、イギリス国教会の聖歌としても使われ、ラグビー・ワールドカップのテーマソング『ワールド・イン・ユニオン』にもなりました。もし、今の時代に作曲されていたら、ホルスト一族は一生何もしなくてもよいくらいの印税が入ったかもしれません。

メンデルスゾーンやモーツァルトの“夏の曲”

 夏の夜といえば、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』も挙げないわけにはいけないでしょう。この曲は、劇作家シェークスピアの戯曲『真夏の夜の夢』の上演のために付けられた音楽で、夏至の日の物語です。できれば全曲を聴いていただきたいところですが、お時間がない方は序曲だけでもぜひお聴き下さい。

 美しいフルートの音色から始まり、軽快なヴァイオリンの音楽は、夏の夜に柑橘系の炭酸飲料を飲んでいるような爽快感が味わえること間違いありません。さらに驚かされるのは、いくら天才とはいえ、この完璧な作品がまだ17歳の時に作曲されているということです。当時、少年メンデルスゾーンに会ったドイツの文豪ゲーテは、神童モーツァルトの7歳時の演奏を聴いたことを思い出しながら、メンデルスゾーンの才能に驚嘆したと伝わっています。

 一方のモーツァルトの曲で夏に聞くのにぴったりなのは、『クラリネット協奏曲』です。当時は、まだ新しい楽器だったクラリネットをすぐに気に入ってしまったモーツァルトですが、シュタードラーという親しい友人がクラリネットの名手だったことも幸いしました。シュタードラーだからこそ演奏できるような細かいニュアンスにあふれたこの曲は、今でも多くの人々を惹きつけています。

 そんなシュタードラーは、モーツァルトと同じく、秘密結社フリーメイソンのメンバーでもありました。実はモーツァルトが活動していたオーストリア・ウィーンでは、クラリネットはフリーメイソンの大切な楽器であり、クラリネットを使用した音楽には、ベートーヴェンも含めてフリーメイソンを暗示させるものが多いのです。

 ジョージ・ワシントンから始まって、多くのアメリカ大統領が会員といわれているくらい、政財界に強い影響を持っているとされるフリーメイソン。モーツァルトの時代のウィーンでクラリネットの音色が、そんなフリーメイソンのシンボルと化したのは、さすが音楽の街だと感心します。

 また、モーツァルトがシュタードラーのために作曲した大傑作に、『クラリネット五重奏曲』もありますが、今回、“夏のモーツァルトの1曲”として挙げるのは、どちらにしようかと思ったくらい、この曲も天才モーツァルトの真骨頂といえる作品です。

一番のおすすめはベートーヴェン

 そして、いよいよ夏に聴く音楽の中で1番のおすすめ、ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』です。これこそまさしく、日本の蒸し暑い夏を苦しんでいる方にぴったりの曲です。

 作曲当時、ベートーヴェンが住んでいたウィーンの郊外は、豊かなワイン畑が広がっています。そのなかでも、ベートーヴェンが好んで夏の避暑地に選んだハイリゲンシュタットは、ドナウ川が流れ、広大な斜面一杯にワイン畑が広がるワイン造りの村で、今もなお同じ風景がそのまま残っています。

 そんな村で毎朝ベートーヴェンが行っていたのは、散歩です。小鳥がさえずる小川の横を歩きながら、木々が生い茂って日陰をつくっている涼しい小道を歩き、メロディーが浮かべばスケッチ帳に控え、散歩を終えたあとはワイナリーに寄り、冷えた白ワインを一杯。

 そんな夏の村の風景を描いた『田園』は、喧噪のウィーンを離れ村に到着した時の清々しい喜び、小川の小鳥、村人の楽しい集まり、急な夏の嵐を描き、その後に美しく晴れ上がった空という5つの楽章から成り立っています。日本ならば、長野・軽井沢や北海道・富良野などで夏を過ごしているような雰囲気を、音楽を聴くだけで体験できるのです。

 最後のおすすめは、シェーンベルクの『浄められた夜』です。弦楽オーケストラが奏でるサウンドは、夏の蒸し暑い夜にぴったりだと思います。この曲はドイツの詩人リヒャルト・デーメルの詩を基にしているのですが、その内容が少し肌寒いのです。

 夜の月明かりに照らされた美しい森に、付き合い始めて間もない若い男女がやってきます。そこで、愛する女性の口から男性に告げられたのは、衝撃の事実でした。「お腹に子供がいます。でも、あなたの子供ではないの」。そんなことを言われたら、男性にとっては暑さどころではないですね。この女性は、「子供を持って、生きる張り合いや母親としての喜びを得たかった」と言い訳するのですが、その相手は見知らぬ行きずりの男性だというのです。ところが、男性はなぜか「この月夜が、お腹の子供を浄めてくれたのだ」と、自分の子供として育てていくと決心する、という話なのです。

 それほどこの女性が魅力的で、男性も好きでたまらなかったのでしょう。行きずりで関係を持ったことを、「母親の喜び」「生きる張り合い」などとよくわからない弁明でごまかしながら、黒い眼差しでじっと男性を見つめているこの女性。この後、2人がどうなってゆくのかは、音楽を聴きながら、ご想像ください。

 ところで、このデーメルの詩は、自分と交わらずにイエス・キリストを身ごもった、若妻マリアに対する、夫ヨセフの葛藤や苦悩をも表しているそうなので、そう考えると深い話です。一方でデーメルは、自分が起こしたダブル不倫を基にした詩を書いており、自分の不義を聖ヨセフの葛藤と一緒にしてしまうという、不謹慎な話でもあるのです。

(文=篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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