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「なぜ不倫で社長を辞任する必要が」スノーピーク、経営者的な能力は別問題か

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表
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スノーピーク社長を辞任した山井梨沙氏(同社HPより/現在は削除済)

 アウトドアメーカー大手のスノーピークは、山井梨沙社長が既婚男性との交際と妊娠を理由に辞任すると発表。いわゆる不倫を理由に社長を辞任するかたちとなったが、企業経営者の間からは「経営者個人のプライベートの問題と経営者としての資質・能力の問題を分けて考えるべきでは」「なぜ社長を辞任する必要があるのか」という声も聞かれる。

 スノーピークの業績は好調だ。2021年度の売上高は前期比53%増の約257億円となり、05年以降16期連続の増収を続けており、22年度も売上高は前期比27.2%増の327億円、純利益は同21.0%増の33億円を見込んでいる。主力のアウトドア事業に加え、山井氏が14年に立ち上げたアパレル事業も年間売上高25億円を上げる収益事業に育ち、キャンピングオフィスやレストラン、温浴施設など事業の多角化も推し進めている。

 山井氏は同社創業者で祖父の山井幸雄氏、2代目社長で父の山井太氏の跡を継ぐ3代目として2年前の20年に社長に就任。これまで2冊の著書を出版し、積極的にメディア出演もこなし「次世代を担う若き女性経営者」としてクロースアップされてきた。

「山井氏は社長就任直後にコロナによる初の緊急事態宣言発出という事態に見舞われ、SNSやECの活用に注力するなど迅速に対応し、コロナ禍のなかでも増収増益を維持してきた。経営者として一定の評価を得ているのは事実だが、そもそも山井氏は会社の業績が右肩上がりのなかで社長に就任し、父の山井太氏も会長として経営の指揮を執っていることから、経営者としての真価が問われるのはこれからというところだった。

 特にスノーピークのようなBtoC企業の場合、社長が積極的にメディアに出て情報を発信するのは重要なことだが、世間的にも目立つ存在となり、32歳(当時)で父の跡を継いで社長になったことから“世襲”という声もあり、さまざまな外野の声に加えて、一部上場企業の社長というプレッシャーも重なり、不倫という道に逃げてしまった面もあるのかもしれない」(小売り業界関係者)

「経営者としては同情してしまう面も」

 スノーピークは21日付で発表したリリースで、

「山井梨沙から、既婚男性との交際及び妊娠を理由として、当社及びグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出がありました」

「本件を重く受け止め、代表取締役会長執行役員山井太から役員報酬3ヶ月分の20%を、代表取締役副社長執行役員高井文寛から役員報酬3ヶ月分の10%を自主返上したいとの申し出があり、当社としてこれらの申し出を受理することを決定いたしました」

としているが、都内のベンチャー企業役員(40代)はいう。

「少し前にフリーアナウンサーの小川彩佳アナの前夫で医療ベンチャー、メドレーの代表取締役医師を務めていた豊田剛一郎氏が、不倫が報じられて同職を辞任した騒動があったが、不倫相手の女性と出会ったきっかけは経営者仲間ら知人たちと行ったクルージングだった。東京だと、ベンチャー企業経営者がプライベートでゴハンしたりするのは、どうしても同業者になりがち。各人が知り合いの女性などを呼んで羽目を外すこともあるが、酔って愚痴ったり情報交換したりして同じ悩みや苦労を分かち合えるので、いいガス抜きになるし、それはそれで重要でもある。

 山井梨沙さんのことはよく知らないが、スノーピークは本社が新潟ということなので、同世代の若い経営者なんかも東京に比べると少ないだろうし、ただでさえ女性の社長は数が少ないので、気楽に悩みを明かし会える機会がなく一人でいろんなものを抱えて、不倫にストレスのはけ口を求めてしまったのかもしれない。

 僕らのようなベンチャーじゃなくても、有名な上場企業の社長だって銀座や六本木の高級クラブで遊んでいる人は珍しくないが、30代前半で女性、しかもメディアに出て目立つ存在になってしまった山井さんの場合、そういうふうに息抜きしたりするのも難しい。同じ経営者としては同情してしまう面もある」

近年にない完璧なリスクマネジメント

 前述のとおりスノーピークの業績は好調であり、純粋に山井氏の経営者としての実績面だけをみれば、退任しなければならない理由はない。そのため、企業経営者からは

「経営者個人のプライベートの問題と経営者としての資質・能力の問題を分けて考えるべきでは」
「なぜ社長を辞任する必要があるのか」

という声も聞かれる。確かに、経営の継続性という観点では、事業拡大をけん引してきた経営者が突然交代するというのは経営リスクや業績低下にもつながりかねないが、その一方、退任しないと、既存株主や社内からの反発が起こり経営が混乱したり、株価低迷やブランド価値低下、顧客離れによる売上減少などが起こるリスクもある。

 今回のスノーピークの対応をどうとらえるか。経営コンサルタントで百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「本件は、経営者自身の対応という観点でも、企業の対応という観点でも、不祥事が起きてしまった際の対応として近年にない完璧なリスクマネジメントが行われたと考えています。まずはその点を高く評価すべきだと思います。

『こういった問題は起こすべきではない』というのは正論ですが、起きてしまったわけです。若い経営者が恋をするというのは起こりうるべきことで、それが起きて他人を傷つけてしまった。その事実を公表するかどうか、その責任をどうとるかが問われた事件だと捉えています。その前提で、真っ先にそれを公表し、このままでは経営者の職務を続けることができないと判断して経営者が辞任し、後任として株主が安心できる前社長が復帰することを発表する。もちろんこの事件でスノーピークのブランド価値は大きく棄損しそうですが、起きてしまった不祥事に関して、株主のダメージは最小となるように対処されたと見るべきです」

 では、経営者がプライベートでの問題を起こした場合、リスク管理の観点で、どのような点を退任か継続かを判断する基準とすべきなのか。

「トップが退任するかどうかを判断する基準としては、

(1)職務遂行が可能かどうか
(2)企業価値がプラスになるのかそれともマイナスになるのか

の2点で判断すべきだと思います。

 今回は妊娠・出産自体は職務上の問題にはなりません。問題はスノーピークという企業の標ぼうする企業価値が『不倫』とは合致せず、この問題によって大きなブランド棄損が起きることになるという点が問題で、その一点だけを考慮して、退任は不可避だったと思います」(鈴木氏)

企業価値の観点から冷徹な対応

 日本の現状においては、上場企業の社長が不倫した場合、社長を退任せざるを得ないというのが現実なのか。

「前提としてオーナー系の旧東証一部上場企業のトップが不倫をしているケースはあります。あくまで過去の話としてお話しすると私も複数のケースを見てきました。社内で足の引っ張り合いがあるサラリーマン企業の場合は、オーナー企業ほどは多くないようです。

 オーナー企業の不倫のケースでは、社長室や法務部が動員されて『問題にならないようにする』対応も行われます。厳密に言えば社内リソースの無駄使いですが、オーナーが会社の利益創出に不可欠な場合、株主はその対応に反対しないでしょう。

 経営者の不倫は公にならない以上問題にもならないというのが大半のケースのようです。今回は女性経営者が妊娠したということで、いずれ公になることから問題をすすんで公表したというレアケースだと思います」(鈴木氏)

 では経営者のプライベートの問題と経営者として能力を完全に分けて考えることは難しいのか。

「退任した山井梨沙前社長は新規事業を立ち上げて成功させるなど実務能力的には素晴らしい経営者だったと思います。一方で、スノーピークがアウトドア業界での一般消費者向けのトップブランドであるという事実を考えると、経営者のプライベートな行動は当然、公になれば企業のブランド価値を棄損します。今回は企業価値の観点から冷徹に対応がなされたというのが私の理解です。

 プライベートな問題としては、山井さん個人としておそらくまだこれから解決すべき問題が多々残されていて、不倫相手の配偶者への謝罪や贖罪で当事者の間で問題が解決するのか、それとも裁判にまで発展するのかまだわかっていない状況だと思われます。

 山井さんは経営者としてあれだけの力のある方なので、プライベートな部分についてもきちんと対応されることを期待しますが、そのような問題を抱えたうえで社長業を続け、社内をまとめ価値を出し続けるのは難しいでしょう。経営者としての能力として『ここから先、社長の仕事を続けるのは難しい』と判断されたわけで、会社としては妥当な判断だと思います。

 これは『仮に』という話ですが、そのプライベートな問題が解決していれば社長を続けられたかどうかというと、私はこのように考えます。可能性として、当事者間で完全に問題が解決したうえで、不倫を解消し、それをプライベートな問題として公表せず、シングルマザーとして今後生きていくことを選択した場合には、社長業を続けることは可能だったかもしれません。この問題は妊娠したかどうかではなく、ブランド企業のトップが不倫で誰かを傷つけたかどうかが問われます。今回の企業判断を見る限り、誰かが傷ついたから今回の判断に発展したのだと考えます。

 以前、オーナー企業の経営者の不倫がトラブルになったケースで社長室や法務部の優秀な社員が火消しに動いたのを見たことがあります。『謝罪の言葉と慰謝料』で相手が納得した場合、口外しないほうが双方に経済的利益があることになり、それで公にならないというケースは少なくないと考えます。それがいいかどうかは別にして、大企業の経営者は業績と株主から見た企業価値によってその地位にとどまるかどうかが判断されるのです」(鈴木氏)
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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