目覚ましアラームで起きたけど、あと5分だけ眠りたい……。そんな気持ちから、ついつい「二度寝」をしてしまう人は多いだろう。巷では「二度寝をすると、抗ストレスホルモンが多く分泌されるのでストレス耐性がつく」などというメリットも耳にするが、事実なのだろうか。上級睡眠健康指導士の加賀照虎氏に話を聞いた。
二度寝の習慣化は負のスパイラル
「二度寝時に抗ストレスホルモンのコルチゾールが多く分泌されることは事実です。しかし、だからといってストレス耐性がつくわけではありません。むしろ二度寝をすると体内時計が乱れ、就寝時間がどんどん遅くなるというデメリットが挙げられます」(加賀氏)
地球は24時間周期で回っているが、人間の体内時計は24時間より少し長めになっている。そのサイクルに合わせるために、毎朝体内時計をリセットする必要があるのだ。
「起床して光を浴びると睡眠ホルモンの『メラトニン』の分泌が止まり、眠気が覚めると同時に体内時計もリセットされます。そして、光を浴びてから14~16時間後にメラトニンが分泌されて眠くなっていくというリズムになっていますので、二度寝をして光を浴びるタイミングが遅くなると、夜にメラトニンが分泌されるタイミングも後ろ倒しになってしまいます」(同)
ビジネスパーソンであれば、就寝時間がいつもより遅くなっても起床時間は普段と変わらない、という人がほとんどだろう。そうなると睡眠時間が減って寝不足になり、翌朝、余計に起きにくい状態になってしまうのだ。
「人が二度寝をしてしまう理由の大半は睡眠不足です。二度寝が習慣化すると、その原因である睡眠不足に拍車がかかり、負の連鎖に陥ります」(同)
他にも、目覚めのタイミングが悪いと、二度寝をしたくなるほどの眠気を感じてしまう場合もあるという。
「人の睡眠のサイクルは、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠が交互にやってきます。大まかに説明すると、ノンレム睡眠は脳が眠っている状態。一方のレム睡眠は眠っているけれど脳が起きている状態なので、レム睡眠時に起床すると眠気を感じにくいのです」(同)
レム睡眠時を狙って起きるには、アラームのかけ方を工夫するのが有効だ。
「『タイム・ウィンドウ・アラーム法』が効果的です。たとえば朝7時に起きたい人なら、7時ちょうどに音ありのアラームをセットし、その20分前の6時40分にバイブのみのアラームをセットします。6時40分時点でレム睡眠であればバイブのみでも起きられますし、このときノンレム睡眠でも周期的に7時にはレム睡眠を迎えていることが多いので、予定時刻ちょうどにすっきりと起きられるわけです」(同)
光を使って寝起き&寝付きを改善
二度寝の最たる原因が寝不足であるなら、十分に眠れば解決する。とはいえ、そんな単純に睡眠時間を増やすことは難しい。では、どのように対策すればいいのだろうか。
「日光は、良くも悪くも睡眠にかなり影響を与えます。そこで光をうまく使い、寝起きと寝付きの両方を良くしていくといいでしょう」(同)
まずは寝起きについて。前述の通り、起床してすぐに日の光を浴びると睡眠ホルモンの分泌が抑えられる。同時に、夜、適度な時間に眠気がやってくるように体内時計のリセットも行えるのだ。
「私は起きたらすぐに光を浴びられるように、毎晩カーテンを開けっ放しにして寝ています。こうすると朝は自然と光が差し込み、その力を借りて起きられるのです。しかし、寝付きの観点からいうと、カーテンを開けたままの状態は外灯の光などが入ってきて入眠に悪影響を及ぼします。今はカーテンの自動開閉マシーンやタイマーで点灯するシーリングライトなど、光による起床を手助けしてくれるデバイスも多数登場していますので、うまく利用するといいでしょう。また、自宅にあるモノでも工夫次第で快適な睡眠環境が作れます」(同)
使うのはハンドタオル1枚。やり方はとても簡単で、就寝時に目の上に置いて、アイマスクのように用いるだけ。こうするとカーテンを開けたまま寝ても外の光が気にならない上に、アイマスクと違って就寝中に寝返りなどで目元から落ちてくれるため、朝には光を感じられるようになるという。
「良い睡眠のためには、体温も大事な要素です。眠るときには体温が下がり、起きるときには上がっていくのが理想なので、汗や熱などを放散しやすい綿や麻の寝具やパジャマを着用し、マットレスも通気性の高いものにするといいでしょう」(同)
特にこれから冬が近づくと、寒さのせいで布団から出たくなくなり、気づくと睡魔に負けて二度寝してしまう状況が生まれやすい。
「冬は起床の30分~1時間前くらいからタイマーで暖房を入れるようにし、温度によって目覚めをサポートするのもおすすめです」(同)
冬に意識して日光を浴びるべき理由
冬場になると二度寝をする人が増えるというのは、寒さだけが原因ではない。
「冬は日射量も減少します。実は、日光には幸せホルモンの『セロトニン』を分泌する効果もあるのですが、このセロトニンが減ってしまうと睡眠ホルモンのメラトニンの量まで減ってしまい、眠りが浅く、短くなってしまいます。睡眠において、光はそれほど密接に関わっているわけです」(同)
ビジネスパーソンであれば通勤時に日光を浴びることでセロトニンの分泌が行えていたが、コロナ禍で在宅勤務が始まり、それも叶わなくなっている人が増えているという。
「日光を浴びる機会が減っていると自覚し、日が出ている時間に意識して外に出るようにするといいでしょう。毎日15分くらい外を散歩するだけでも、大きく変わりますよ。外に出るのが億劫な人は、朝食を窓辺で食べるなどでもOK。窓ガラスを通しているので散歩より長い時間浴びる必要がありますが、何もしないよりは効果が期待できます」(同)
そして、日光を浴びる上で重要なのが「光を目で捉えること」だそうだ。
「視交叉上核という神経があるのですが、そこが体内時計のリズムを整える役割を担っています。直接太陽を見るわけではなく、『まぶしいな』と感じる光を目で捉えると、リズムを調整するのに効果的です」(同)
また、毎朝のように二度寝をしたくなるほどの眠気に悩まされている人は、日中に昼寝をして夜の睡眠を補助する方法もある。
「就寝時刻の9時間前までに20分以内の昼寝をすると、夜の睡眠に影響しない範囲で寝不足を補えます。ただ、夜間に十分な睡眠時間が確保できていれば二度寝や昼寝をする必要はありません。根本から問題を改善するためには、夜にしっかりと眠るようにしてください」(同)
さまざまな対策を講じたのに寝ても寝ても眠いと感じるのであれば、睡眠障害の可能性も考えられる。その場合は速やかに病院を受診しよう。
気温が下がっていくにつれ、布団から出たくなくなる人は多いもの。今回紹介したテクニックを駆使し、すっきりとした目覚めを迎えてほしい。