就寝中に上下の歯をすり合わせ、ギチギチ、ギュッギュッと鳴らしてしまう「歯ぎしり」。眠っている間の歯ぎしりは自分で気づきにくく、家族やパートナーに指摘されて初めて知る人も多いという。特に大人の歯ぎしりは力が強く、ひどい場合には歯が割れてしまうこともある、危険な現代病だ。
「歯ぎしりには、主にギリギリと音がする『グライディング』と、上下の歯を食いしばる『クレンチング』という2つの種類があります。グライディングの場合は家族などの指摘によって気づくことが多いですが、クレンチングは音が小さいため発覚が遅れることがあります。子どもの歯ぎしりは『歯並びの調整』とも言われているので、それほど問題がありません。しかし、すべての歯が永久歯に生え変わった大人の歯ぎしりは、さまざまなトラブルにつながります」
そう話すのは、東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック院長の新谷悟医師だ。新谷氏のもとには、歯ぎしりに悩む患者も多く訪れるという。
「睡眠中の歯ぎしりによって歯にかかる力は、日中の5~8倍といわれています。そんな強い力で歯をこすり合わせれば、歯がすり減るだけでなく、歯の詰め物が取れたり、歯茎が下がって『知覚過敏』を発症したりする可能性があります。なかには、荷重がかかりすぎて歯が真っ二つに割れてしまうケースもありました」(新谷氏)
歯へのダメージだけでなく、睡眠中にこめかみ周辺の「側頭筋」やエラあたりにある「咬筋」、首筋にある「胸鎖乳突筋」などに力が入った緊張状態が続くため、頭痛や肩こりの原因になることも。なかには、意外なかたちで歯ぎしりが判明するケースもある、と新谷医師は指摘する。
「『歯が割れる夢を見た』『夢の中で奥歯が痛んだ』など歯に関する夢を見たと話し、実際に歯にヒビが入って来院した患者もいます。睡眠中の歯ぎしりが夢にも影響を与えているようです」(同)
何より、歯ぎしりをしているときは眠りが浅く、体にも力が入っているため熟睡できていない状態だ。睡眠の質を下げるという意味でも、歯ぎしりはNG習慣なのである。
歯ぎしりの原因にもなる悪癖「TCH」とは
では、なぜ歯ぎしりや食いしばりを起こしてしまうのか。その原因は、ストレスや飲酒などのほかに「TCH(Tooth Contacting of Habit)」という悪癖が大きな影響を及ぼしているという。
「『歯列接触癖』とも呼ばれるTCHは、長時間上下の歯を接触させるクセを指します。一般的に、食事や会話以外で口を閉じているときは上の歯と下の歯の間には2~3ミリの隙間が空いているのですが、TCHの人は口を閉じているときも上下の歯が接触していたり、無意識に強く食いしばったりする傾向があります」(同)
通常、食事を含めて上下の歯が当たるのは1日で20分以下。しかし、TCHの人は日に数時間も上の歯と下の歯が接触しているという。
「日中に上下の歯が接触しているとき、歯の根を覆う『歯根膜』が刺激を受けます。歯根膜には食べ物の食感や痛覚を脳に伝える役割があるのですが、TCHによって歯が受けた刺激は“ストレス”として脳に伝わります。歯と歯が当たるストレスが常態化すると、脳は上下の歯に隙間を空けるという指令を出せなくなり、睡眠時にも力加減ができずに、強い力で歯ぎしりをしてしまうと考えられています」(同)