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大阪IR予定地の賃料鑑定、市が事前に参考値提示…3業者が格安の同額鑑定

文=Business Journal編集部、取材協力=竹内英二/グロープロフィット社長・不動産鑑定士
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大阪府「大阪IR基本構想」公式サイトで紹介されているIR建設予定地の夢洲

「(賃料の鑑定評価額が)完全に一致するということは、鑑定業界の常識からはあり得ないと言われています」

 長野真一郎弁護士は16日、大阪市役所内で開いた会見でそう指摘した。

 大阪府と大阪市が、同市の人工島・夢洲(ゆめしま)に計画する「カジノを含む統合型リゾート」(IR)の誘致をめぐり、市が依頼した建設予定地の鑑定評価(賃料)は不当だとして、長野弁護士ら市民85人が16日、事業者と予定されている定期借地契約の締結差し止めを求めて住民監査請求した。各社報道によると、市は「賃料の設定は適切に行われた」と反論しているという。

IR予定地の賃料、鑑定業者4社のうち3社が格安で同額

 請求書によると市は2019年、不動産鑑定業者4社にIR予定地である49ヘクタールの市有地に関し、不動産鑑定評価書の作成を依頼。評価書の予定地の賃料に関し、4社のうち3社が「1平方メートルあたり月額428円」で一致していた。評価書を踏まえ、市は予定地の賃料を月額428円(1平方メートル当たり)に設定した。

 市民らは請求書で、この鑑定の際、大阪市が鑑定業者に対し「IRの誘致は全国初で鑑定参考額がないため、IRは考慮せずに鑑定すること」を指示したとしている。その結果、夢洲と隣接する地域に比べ“格安”ともいえる不当な賃料になり、地方自治法に抵触すると主張している。なお、地方自治法第237条2項は次のように定められている。

「普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない」

 市はIR事業実施予定者の米MGMリゾーツ・インターナショナルオリックスの連合体に年間25億円で35年間貸し出す予定だ。

大阪市、鑑定評価依頼前に「参考価格」

 同疑惑に関しては、TBS系列局の毎日放送(MBS)が昨年12月12日、『IR用地の「賃料」が安い⁉なぜか鑑定業者4社のうち3社が「同額を提示」、大阪市が事前に出した参考価格とも「ほぼ同じ」市「手続きに問題ない」』でスクープしていた。

 報道によると、鑑定業者に依頼する半年前、市はIRのコンセプト募集で「IR用地について12万円として試算。(編集部注:1平方メートルあたりの)賃料単価435円」などと「参考価格」を示していたという。大阪の都市計画について取材経験のある全国紙記者は語る。

「(IR)予定地は大阪メトロ中央線などの延伸計画で設置される新駅(編集部注:夢洲駅)に面する一等地です。もしMBSさんの報道が確かなら、隣接区域は50万円くらいが相場なので12万円は格安と言えるでしょう。(鑑定評価書の賃料が同一だったことで)談合が疑われるかどうかはわかりません。ただ市が外堀を埋めるように、不動産鑑定業者に自分たちが想定している金額に仕向けた感はぬぐえませんね」

この条件下で鑑定士は「自由な鑑定」ができるのか

 公有地などの公的評価・地価調査では、不動産鑑定士などが、それぞれの知見やキャリアを活かして、“適正・正常な価格”を評価するものだ。ましてや今回のように、全国の注目を集めているような事業予定地であれば、価格の妥当性と根拠が、より強く求められる。

 一方で今回の監査請求書や報道にあるように、市側から「IRは考慮除外」と指示された上、「参考価格」が示されているような状況下で、鑑定する側は「自由な鑑定」ができるのか。

 不動産鑑定会社グロープロフィット社長で不動産鑑定士・中小企業診断士の竹内英二氏に以下のように聞いた。

――自治体側から参考価格や「IRは考慮外」などの諸条件が示されているような状況で公的評価を依頼された鑑定士は「自由」な鑑定ができるものなのでしょうか。

竹内英二氏(以下、竹内) 自由な鑑定ができたかどうかは、参考価格がどれほどの意味があったのかにもよります。

 暗に参考価格に近付けてほしいという比較的強い指示があったなら、各社がそこに近づける形で評価をしたものと思われます。

 IRの考慮に関しては、逆に依頼者側が「IRを前提とする」という条件を付けない限り、鑑定評価でIRを前提に評価をすることは難しいといえます。

 理由としては、評価の時点でIRは合法的に建てられる施設ではないからです。実現の蓋然性が低いものを、鑑定士が勝手に想定することはできません。今回は依頼者側からIR考慮外としたことから、現状で建てられるショッピングモールを前提に評価がなされたものと思われます。

 3社の価格が一致したのは、参考価格の重圧が大きかったものと推測されます。仮に鑑定士が談合するなら、似たような価格をバラして出すといった談合をすると思います。鑑定士も同じ価格を出したら怪しまれることはわかっていますので、わざわざ談合して同じ価格を出すとは考えにくいです。

 案の定、今回は3社の価格が同じことが疑われています。3社の価格が同じになった件に関しては、各社が参考価格に近付けようとした結果、たまたま同じになった可能性も捨てきれないと思います。

――大阪のIRは「前例のない複合施設の計画予定地」だったため、その予定地内に建設される最も収益性の高い施設(ショッピングモール)を基準に地価や賃料が算出されたとの説明がされています。一般的に「前例のない複合施設の地価調査」の場合、そのような手法が使われるということでいいのでしょうか。

竹内 「前例のない複合施設」という点は、あまり問題ではありません。評価時点で、実現性および合法性の面で条件が妥当と認められることが必要です。IRはまだ候補地段階であるため、実現性および合法性の面で妥当性を欠く設定条件となります。

 大阪市は公的機関であることから、実現性および合法性で妥当性を欠く条件を要求するのが難しかったものと思われます。そのため、「IRであることは考慮外」としたことは、鑑定評価上は妥当です。前例のない複合施設であっても、実現性および合法性があるものであれば、予定している施設を前提に鑑定評価を行うことはできます。

(文=Business Journal編集部、取材協力=竹内英二/グロープロフィット社長・不動産鑑定士)

 

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