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つくばエクスプレス、高額料金の原因は地磁気観測所の存在?茨城県が移転を要望

文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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気象庁・地磁気観測所のHPより

 つくばエクスプレスの料金が高い理由をめぐって、気象庁の地磁気観測所が茨城県石岡市にあるためだというツイートが話題を呼んでいる。同観測所の半径35km内は鉄道の直流電化が制限されるため、鉄道は費用が高い交流電化を行わなければならず、茨城県内の鉄道の大部分が整備を余儀なくされているとして同県は移転を求めていたのだ――。

 2005年に開業した、つくばエクスプレス。もともとは新常磐線として計画された路線で、JR常磐線の混雑緩和や鉄道空白地帯が多い沿線の開発などを目的としていた。以前では、つくば市内から東京都内に出るには常磐線経由かバスを使用しなければならなかったが、開業によって秋葉原駅とつくば駅が40~50分ほど(快速)でつながった。沿線駅周辺では商業施設の整備などが進み、守谷駅や流山おおたかの森駅は各種「住みたい街」調査などでランクインするようになるなど、街としての人気が高まりつつある。

 新型コロナウイルス感染症の拡大による一時的な影響はあるものの、利用客は着実に増え業績も安定しており、加えて経済効果も認められるため、土浦・水戸・茨城空港・筑波山への延伸も検討されている。

 一方の地磁気観測所は、その名のとおり地磁気観測を行う気象庁の施設で、その意義について石岡市のHPでは次のように解説されている。

<電気を帯びた粒子が太陽から吹き付ける「太陽風」が原因で発生する地磁気の短期的な乱れも存在しています。強い太陽風が地球に吹き付けると磁気嵐が発生し、送電線の障害や人工衛星の故障・放送等の電波障害等の影響があります。1989年にカナダのケベック州で発生した大停電は、磁気嵐により送電線に異常な電流が流れたのが原因でした。それらの社会的に多大な影響がある磁気嵐を予測するために、気象庁地磁気観測所で観測・分析した地球内外の磁気データは電力会社等の社会インフラ事業者を始め、国内外の研究機関に提供され、広く利用されています。

 また、地磁気の観測データは火山の噴火予測や地震の予知研究・地球の内部構造の推定に関する研究等にも幅広く役立てられています>

つくば駅-秋葉原駅間の運賃、往復で2420円

 その地磁気観測所の存在が地域住民におよぼす大きな影響が、法律によって観測所の半径数十キロメートル以内では直流方式の電化を採用できないという制限だ。これにより、つくばエクスプレスは守谷駅からつくば駅の区間は交流電化しなければならないため、通常の直流電化方式で運行ができず、その対応コストのせいで料金が高くなっているという指摘が冒頭のツイートだ。ちなみに、つくば駅-秋葉原駅間の運賃は片道1210円(2月15日現在)となっており、往復だと2420円になる。

 この問題に地元自治体も頭を悩ませている。実際に昨年、茨城県は国土交通省と気象庁に「国の施策及び予算に関する提案・要望」を提出し、次のように要望している。

<気象庁地磁気観測所の半径35km内は、鉄道の直流電化が制限されるため、本県の鉄道の大部分は、直流電化よりも費用がかかる交流電化(交直両用方式)での整備を余儀なくされております。

 直流電化方式による運行ができないことで、昭和3年に水戸電気鉄道(水戸~長岡~奥谷~石岡)や筑波高速度電気鉄道(田端~流山~守谷~谷田部~大穂~北条~筑波山)の電化営業許可申請が地磁気観測に障害があるとして却下されたほか電化方式の違いが東京方面の鉄道との相互乗り入れの阻害要因になるなど、過去から現在に至るまで、本県の鉄道ネットワークの構築に大きな制約となっております。

 つきましては、下記事項について特段のご配慮をお願い申し上げます。

1 鉄道ネットワークの構築を図る上で制約となっている気象庁地磁気観測所を、国の責任において、早期に県外に移転すること。

2 将来にわたって、交流電化(交直両用方式)を導入することによる車両整備経費等のかかり増し分について、十分な補償を行うこと>

建設費の償還

 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「『首都圏新都市鉄道常磐新線』こと、つくばエクスプレスは、秋葉原-つくば間58.3kmのうち、秋葉原駅から40.7km、つくば駅から17.6kmの守谷-みらい平間を境に秋葉原駅側が直流1500V、つくば駅側が交流2万V・50Hzで電化されました。この結果、2020年3月31日現在で同社が保有する240両の電車のうち、交流でも直流でも走行可能な交直流電車は156両、全体の65パーセントを占め、直流だけで走行可能な直流電車は84両・全体35パーセントとなっています。

 つくばエクスプレスの運賃が高めなのは交流で電化されているからという意見がありまして、確かに車両の維持費は直流電車と比べて高い傾向にあるといえるでしょう。2019年度のつくばエクスプレスの車両の維持費は21億6662万3000円で、車両1両当たり903万円でした。すべてが直流電車の関東の大手私鉄9社は車両1両当たり553万円ですから、相当高額です。

 車両の維持費が高額な理由はわかりません。とはいえ、直流電車にはなく交直流電車に搭載されている変圧器、それから走行中に直流電化区間と交流電化区間とを直通するために必要な各種切換装置の修繕費が高いからかもしれません。

 なお、つくばエクスプレスの高額な運賃は、他に大きな理由があります。それは8081億円に上った建設費のうち、6950億円を同社が償還しているからです。2020年3月現在で償還すべき建設費の残高はまだ6130億円あまりあると思われ、運賃を下げることはできません。同様の傾向は新たに開通した鉄道で見られ、つくばエクスプレスと同じ千葉県内に1970年代以降建設された北総鉄道や東葉高速鉄道も運賃が高いことで知られています」

(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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