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三菱電機、脱・総合電機メーカーを加速、容赦なき改革の裏側…不採算事業を分社化

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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三菱電機のHPより

 最近、三菱電機は事業運営体制の抜本的な改革を行っている。重要なポイントは、強みを発揮できるインフラや産業分野などへの選択と集中を加速させることだ。一つの取り組みとして、4月24日、自動車機器事業の構造改革が発表された。自動車機器事業は分社化される方針だ。それによって成長戦略の立案と実行スピードを高め、自動車の自動運転技術向上などに必要な装置、ソフトウェア開発などの加速が目指される。一方で、競争力を失った事業は閉鎖される。それは自動運転技術の研究開発や設備投資資金の捻出にも欠かせない。事業ポートフォリオの入れ替えが大胆に進み始めた。

 背景の一つに、このままでは世界経済の急激な環境変化についていくことが難しいという経営陣の危機感は高まっているだろう。今後も、全社的に事業ポートフォリオの見直しは進められ、課題事業の売却や閉鎖などの改革は加速しそうだ。三菱電機経営陣はこれまで以上に各事業部門、一人一人の従業員に成長を目指す覚悟を求め、その実現に向けた改革を強化すると予想される。

ビジネスモデルの転換急ぐ三菱電機

 現在、三菱電機はビジネスモデルの抜本的な再構築に取り組んでいる。総合電機メーカーから、産業機器や社会インフラ企業への転換が加速している。世界経済のデジタル化への遅れの挽回を急いでいるといってもよい。

 もともと、三菱電機はテレビをはじめとする民生分野と、工作機械やインフラ関連など産業分野の両方で成長を目指した。同社は製品の設計から開発、生産、販売、アフターケアなどを自己完結した。自社のあらゆる製造技術や知的財産、組織運営のノウハウなどが社外に流出しないようにしたわけだ。1980年代のように、日本経済の成長率が高く、日本企業の持つ製造技術も世界的な競争力を発揮している状況下、B2CとB2Bの両分野で世界経済の需要を取り込もうとするビジネスモデルは相応の優位性を発揮した。

 しかし、1990年代の初め以降、三菱電機を取り巻く事業環境は急激に変化した。まず、1990年の初頭、バブルが崩壊した。株式や地価など資産価格は急速に下落した。個人消費などの減少により景気も冷え込んだ。同社は新卒一括採用、年功序列、終身雇用の雇用慣行に基づいた組織運営を守るために、リスクをとって成長性の高い分野に進出することは難しくなった。むしろ、同社は既存事業の維持を優先した。

 一方、海外経済では国際分業が急加速した。米国ではIT革命が起きた。マイクロソフトやアップル、グーグルなどはネットワークテクノロジーの優位性と成長性に着目し、ソフトウェアの設計・開発に集中して取り組んだ。米国企業が設計したデバイスの生産を、台湾、韓国、中国などの企業が請け負った。こうして、国際分業は加速した。米国のIT先端企業は設備投資の重さから解放され、新しい需要創出スピードは勢いづいた。製品の生産をTSMCや鴻海精密工業などが受託し、世界経済全体で企業の事業運営スピードは高まった。さらにリーマンショック後はスマホの登場によりデジタル化は加速した。その結果、民生・産業の両分野に事業領域を広げた三菱電機の競争力は低下した。

「選択と集中」のための分社化

 4月24日に発表された自動車機器事業の構造改革の狙いは、選択と集中を強化して強い分野の成長を加速させることにある。これまで三菱電機は工場の自動化、省人化などを支えるFA機器と自動車機器を一つの事業(インダストリー・モビリティ)部門として管理してきた。2022年度の連結決算を見ると、FA事業では売上高、営業利益ともに前年度から増加した。FA事業の競争力は高いといえる。一方、自動車機器事業の営業損益は462億円の赤字だった。前年度は315億円の赤字だった。部門全体でみると、自動車機器事業がFA機器の足を引っ張っている。

 この事業運営体制を続けることは合理的ではないだろう。自動車に用いられる自動運転システムの開発とFA関連装置の開発は異なる。世界の自動車産業では、急速に自動車のネット接続、自動運転、シェアリング、電動化(CASE)など、最先端技術の実装が加速している。一方、中国の人件費増加や地政学リスクの高まりなどを背景に、中国からインドや東アジアの新興国、あるいは本国などに生産拠点を移す企業も増えている。そのため世界的な景気後退の懸念が高まる中にあっても、工場の省人化や自動化など産業分野でのIoT技術の導入は進んでいる。

 三菱電機が収益性を高めるために、自動車機器の事業を分社化する意義は高い。それによって、FA分野ではロボットや制御技術などの開発により集中しやすくなる。自動車機器分野では、採算性の悪化したカーナビ事業の終息もあり、先進の自動運転支援システム(ADAS)開発など先端分野の研究開発強化、そのためのコスト削減などが行いやすくなるだろう。また、世界の自動車産業では、CASEなどの技術変革に対応するために大手自動車メーカーの合従連衡が増えた。その上で自動車メーカーはIT先端企業や半導体メーカーとの連携を強化している。三菱電機が自動車機器分野の成長を目指すために、他社との連携強化も欠かせない。そのためにも分社化による意思決定の迅速化などの意義は大きいと考えられる。

構造改革の徹底強化は不可避

 今後、三菱電機の経営陣はこれまで以上に強い覚悟をもって構造改革を進めると予想される。2022年度の決算説明会資料を確認すると、FAやパワー半導体、インフラ、空調などの分野で三菱電機は世界的な競争力を発揮している。強みが維持されている間に経営陣は組織の風土を根底から変革し、成長志向を高めなければならない。資産の売却や分社化などはさらに増加する可能性が高い。

 なお、世界的にみて複合化した事業ポートフォリオを見直し、選択と集中を進める企業は増えている。例えば、2021年11月、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)は事業ポートフォリオを航空機エンジンと医療機器、電力の3つに分割すると発表した。事業領域が拡大すると、投資家にとってその企業の強みが何であるかはわかりづらくなる。そのため、複合的な事業ポートフォリオを持つ企業の株価はのびなやむことが多い。これをコングロマリット・ディスカウントと呼ぶ。その解消、さらには事業領域ごとの専門性向上、成長加速などを狙って事業を分割するケースは増えている。2023年1月にGEの医療機器部門はナスダックに上場を果たした。

 状況によっては、三菱電機が他の事業を分社化し、早期の上場を目指す展開も考えられる。今回の自動車機器事業の改革案を見る限り、経営陣の覚悟はかなり強いとみられる。というのも、近年、同社では鉄道車両用空調装置などの不適切な検査が発覚した。それは、1990年代以降、日本経済が停滞する中で同社の組織が守りの心理により強く浸り、結果的に事業運営の効率性の向上や、新しい取り組みの強化への意識が希薄になった裏返しにも見える。組織のマインドセットを抜本的に刷新するには、個々の事業部門が自律的に成長を目指し、利害関係者との信頼関強化に取り組むことが欠かせない。バブル崩壊から30年以上の時間が経過してようやく、同社は自力で新しい取り組みを増やし、需要を生み出さなければならないという認識を強くし始めているようだ。三菱電機の経営陣は不退転の覚悟で選択と集中を進め、成長期待のより高い分野にヒト、モノ、カネの再配分は加速しそうだ。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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