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W杯会場のゴミ拾いで称賛を浴びる日本人が、バーベキュー後に大量のゴミ放置の謎

取材・文=文月/A4studio、協力=榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表
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「gettyimages」より

 4月14日放送の情報番組『めざまし8』(フジテレビ系)が報道した内容が大きな話題になった。それは岡山県岡山市のある河川敷で行われた「2023岡山さくらカーニバル」の跡地に、食べ物の容器や空き缶、調味料がまだ入っているボトル、ブルーシートなどのごみが大量に捨てられていたというニュース。挙句の果てには火が点いたままの炭がバーベキューセットとともに放置されており、番組内では「常識では考えられない」と怒りを露わにする声も紹介されたが、SNS上には

<サッカー会場でしかゴミが拾えない日本人という特殊さ。>

といった声が続出し波紋を呼んだ。昨年12月に開催された「2022 FIFAワールドカップ カタール」では、日本人サポーターが自主的に試合後のスタジアム内のごみを拾う姿が、海外のメディアで報道されており称賛を浴びた。しかし、同じ日本人でも時と場所によって、ゴミひとつでここまで行動に差が出るのかと驚く声も少なくなく、SNS上では議論が沸き上がっていた。

 日本人は「みんながやっているから私も同じように行動する」という傾向が強いといわれるが、同調圧力に駆られ、誰かがごみを拾っていればその他の人もごみを拾うし、逆に周りがだらしないと全員でゴミを放置したままにしてしまうのかもしれない。そこで今回は心理学博士でMP人間科学研究所所長の榎本博明氏に、ゴミ問題から考える日本人の同調圧力について解説してもらった。

自分がない日本人、同調圧力で周りを気にしすぎている

「日本人には、他人からの目線を気にして行動するため同調圧力が無意識に働いてしまう国民性があります。これだけ話すと、日本人は窮屈な人々に思えますが、悪い面ばかりではありません。たとえば、コロナ禍のマスク着用のように、法律で禁じられたり罰せられたりしなくても、国内ではきちんと着用する人が多かったといった事例があり、日本では公的にみっともないとされることは極力控えるようにする圧力が働きがちです。ゴミに関しても、日本全体で『ゴミは勝手に捨ててはいけない』という共通認識が生まれているからこそ、多くの人は公共の場を乱すまいという義務感でゴミをポイ捨てしないように努めているワケです。

 半面、他人からの目線が行き届かない状況ですと、隠れてポイ捨てするというのは珍しい話ではありません。特に同調圧力からゴミの管理をしていた人ならば、周囲の目線も気にならないので、結果的にポイ捨てをしてしまうでしょう。このように同調圧力は時と場所によってその力が強まったり、弱まったりするのです」(榎本氏)

「旅の恥は掻き捨て」という言葉があるように普段の自分を知る人が少ない環境、場所において、羽目を外してしまう日本人は少なくないという。

「『ハレとケ』という概念のように、日本人は日常から切り離された空間に身を置くと、途端にお祭りのような非日常を味わえるので、タガが外れてしまう人は多いです。人の目をずっと意識して生活しているなかで、突如それがなくなるワケですから、反動もあって何をやっても問題ないという認識が生まれてしまいます。そうではない人もいるのはもちろんですが、自分の中に規範や絶対的な価値観がない人が日本人には多いので、如何せん周りの動きに合わせがちです。そのため、周囲がゴミをポイ捨てしていれば、自分もつられてついポイ捨てしてしまう……なんてことは容易に想像できてしまいます。

 酔っ払いに関して日本社会は寛容であるのも、自分がない日本人ならではの性質といえます。『無礼講』という言葉があるように、日常場面と違って、飲み会では何をやっても許される雰囲気になりますし、砕けた態度や話し方になることで親しみやすくなるケースもあるでしょう。したがって、多少お酒で自分を見失っても、おおめに見るのが日本社会なんです。ちなみに自己の一貫性を重んじる欧米社会ではそんなことはご法度。他人の目線を気にする日本ならではの特徴といえるでしょう」(同)

欧米コンプレックスが強く、祭りのような一体感がある

 一方、サッカー場で熱心にゴミ拾いをする日本人サポーターの姿からは、日本人が抱えがちなあるコンプレックスを読み取れるという。

「日本人はとにかく欧米諸国などの海外に対するコンプレックスが強いです。明治以来、海外の文化が輸入されるようになってからというもの、日本人は海外より遅れている、劣っているという意識が強く、とにかく海外からよく見られたいと思うようなところがあります。

 ですからサッカーの国際試合となると、海外の目を強く意識し、スタジアム内に溢れたゴミ拾いをすることで日本人として誇らしい気持ちになれるワケです。人の目を意識する国民性が、欧米コンプレックスにより、海外の目を強く意識することにつながっています。ゆえに、何かにつけて海外でどうみられているか、外国人からどう思われているかをやたら気にするのです。それに加えて、昔の村社会の延長で人と人の心理的距離が近く、一体感を大切にする国民性を持ち合わせています。ゴミ拾いを一緒に行うことで仲間同士の集団で何かを成し遂げるという満足感もあるでしょうね。

 しかし、みんな一緒といった平等主義的発想の強い日本人はあまり意識しないでしょうが、ほかの国からしてみれば、たしかに称賛に値すると評価する声も多いものの、ゴミ拾いは清掃員が行う仕事ですので批判も少なくありません。」(同)

 では、ゴミのポイ捨てへの対策としては、どのようなことが有効だろうか。

「花見などのイベントでは、自発的にゴミを拾う人が多くするように声掛けをすれば、それにつられて拾う人も多くなるでしょうが、現実的な策ではない気がします。ですから、たとえば同調圧力を思い出させるようなポスターを作るのはどうでしょうか。『ゴミを捨ててはいけない』という文言ではなく、『ポイ捨てするあなたを、だれかが見ている』といった具合に監視の目があることを忘れるなと釘を刺す文章を記せば、ハッとさせられ、自分を見直す人は少なくはないかもしれません。ほとんどの人はきちんとルールを守っているので、こうしたマナー違反の人はごく少数だと思いますが、マナー違反が横行する場面では、日本人の同調圧力に訴えるのも有効な対策になるかもしれませんね」(同)

(取材・文=文月/A4studio、協力=榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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