「船場さんには多くのプロジェクトにご参画いただき、共に魅力あるまちづくりに励んでいただいております」
千葉県木更津市の渡辺芳邦市長のこんなコメントが、同市の公共事業を受託している株式会社船場のPRサイトに掲載されていることに、ある自治体関係者は驚きを隠さない。
「市長が特定の民間企業の宣伝ページに登場して、一緒にがんばっていきましょうというのは、いくらなんでも癒着がすぎるのではないでしょうか」
商業施設のディスプレイデザインを手掛ける船場は、2015年に東京・世田谷オープンした二子玉川蔦屋家電や、2018年に山口県に開館した周南市立徳山駅前図書館の内装を手掛けている。これらを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とも近しいことから、CCCが同社とタッグを組んで木更津市にツタヤ図書館を実現しようとしているのではないかと、各方面から囁かれているのだ。
当サイト前回記事では、CCCが代表企業を務め船場が構成員となったコンソーシアムが、市民交流プラザの基本計画・基本設計の策定事業者に選定されるまでの不透明なプロセスを詳しくみてきた。
市民交流プラザは、新庁舎内に設置が予定されている。今回、疑惑の対象となった同施設の基本計画・基本設計のプロポーザルの中に、CCCグループだけが館内の配置図を盛り込んできたのも、新庁舎関連の別の事業を受託している船場からCCCへ施設全体の図面データが漏洩したからではないかとの指摘もあるのだ。
そもそも、渡辺市政とCCCが描く、木更津市の賑わい創出プランの実現へと、最初から方向づけられていたのではないのかと指摘する関係者もいる。
木更津市では今、いったい何が起きているのだろうか。今回の市民交流プラザ疑惑の下地ともいえる新庁舎の整備事業について、簡単にこれまでの経緯をまとめておこう。
木更津市では、2012年から老朽化で耐震性が不足していた市庁舎の整備事業に取り組んでおり、2013年に「庁舎基本計画構想・基本計画」を策定。事業費総額81億円をかけて新しい庁舎を整備する予定だった。ところが、東日本大震災の復興需要や2020年の東京五輪需要の高まりによって、事業費が予定価格を大きく上回る事態になってしまった。
そこで、新庁舎建設事業費が落ち着くと想定される東京五輪後まで、新庁舎の建設をいったん延期することを決定。2015年9月からは、木更津駅西口駅前の商業ビルと朝日地区のイオンタウン朝日の2カ所に分かれ、仮庁舎として業務を開始することになったという。
2019年7月からは、学識経験者や関係団体・市民の代表らからなる庁舎整備検討委員会が、庁舎整備にかかわる基本方針の見直しを行い、2020年2月に市に答申。この答申と庁内で行っていた検討委員会の結果を受けて、2015年に策定した基本構想・基本計画を改定したのが、2020年6月のことだった。
その改定のポイントは、以下の4つである。
・整備候補地を「旧庁舎跡地」から、現在も仮庁舎にしている「木更津駅周辺と朝日庁舎の2カ所」へと変更
・事業手法を建設(PFIのBTO方式※)から賃借(民間施設の一部)に見直し
・賃借面積を1万2000平米とした(建設では1万8000平米だった)
・木更津市駅庁舎周辺に市民交流スペース等の複合施設を設置
※民間が建てて自治体に所有権を移転し、運営を民間に任せる方式
最大の変更点は、庁舎を建設から賃借へと転換したことだ。自治体所有の土地を民間に貸して収益を得るのかと思ったら、木更津市の場合は、その逆。民間が建てた商業ビルを、庁舎がまるごと借りて入居するという珍しい方式。それでも30年間の概算費用で比較すると、借りたほうが安く済む試算になっている。
そうしたなか、庁舎の機能面での2020年6月改定の柱は、「駅庁舎周辺に市民交流スペース等の複合施設を設置」だった。そう、今回CCC選定で疑惑があがっている市民交流プラザは、まさに改定された基本構想の目玉だったのだ。
では、木更津市の新庁舎整備事業というビッグプロジェクトに、どのようにして船場とCCCが食い込んできたのだろうか。ここからは、関係者への取材と発表された資料から見えてきたことをまとめておこう。
下の表は船場が、ここ数年、木更津市で受託した主な案件の一覧である。
真っ先に注目すべきなのが、2019年5月に同社が受託した「公共施設再配置基礎調査」だ。自治体が所有する公共施設について、老朽化した建物を建て替えたり移転して集約するなど、より効率的に運営するための基礎調査を同社が担当。その対象とされたのが、駅前庁舎、朝日庁舎、中央公民館、図書館など6施設だった。
これ以降、同社は木更津市の重要プロジェクトを次々に受託。8者競合を勝ち抜いたとされる2021年7月の「木更津飛行場周辺まちづくり構想策定支援業務」も含めた全7案件のうち、3案件が船場1社のみの応募。残り4案件のうち1案件が、疑惑の市民交流プラザとくれば、すべてが公平に選定されているようには到底思えない。ある関係者は、ここまでの流れをこう読む。
「船場さんは主に商業施設を手掛けてきた企業で、公共の仕事はほとんど実績がなかったはず。それなのに突然、これだけの案件を受託できたのは、木更津市が求める方向性をうまく打ち出せる“何か”があったからではないでしょうか」
公共施設の再配置調査を経て、2020年6月には新庁舎整備の基本構想・基本計画の改定と同時に出された「木更津市中規模ホール整備基本計画」。興味深いことに、この報告書の目玉も「にぎわい交流拠点」だった。
そして「木更津飛行場周辺まちづくり」に関しては、翌年6月の基本計画・基本構想の策定業務も同社が受託。昨年10月に発表された同事業の基本計画案では、吾妻公園に88億円かけて文化芸術施設を建設し、その1階には2400平米の図書館を設置する構想が明かされた。
さらに昨年6月には、市立図書館の整備計画を1社のみ応募で船場が受託。6月29日に要項を配布したが、1週間以内に参加表明し、7月12日までにプロポーザル提出という超タイトな募集スケジユールを知ると、応募が船場1社だけだった意味を、つい詮索したくなる。
その素案も昨年末に発表され、33億円かけて40万冊を所蔵する新図書館の構想が着実に進んでいる。となれば、今回選定疑惑が起きた市民交流プラザと同様、CCCが市立図書館の整備計画を手掛けた船場とタッグを組んで、市民交流プラザのツタヤ公民館に加えて、ツタヤ図書館までもダブルで実現させようとしているかのようにみえる。
新庁舎の整備と同時進行している、駅周辺の人口減少やみなとまち木更津の再生をめざした“パークベイプロジェクト”のど真ん中に、市長直結の司令塔として鎮座する船場。その背後には、ハコモノの建設を担当するゼネコンと、自己負担ゼロ円で自社仕様のツタヤ図書館と市民センターを手に入れようとしているCCCが見え隠れしている構図が、おぼろげながら浮かび上がってきた。
市の事業の深く入り込む船場
さて、船場が受託した事業のなかで、今回の市民交流プラザの不正疑惑と密接に関連性しているものとして、ある関係者が“注目すべきもの”と挙げたのが、同社が2021年4月に受託した「庁舎整備支援業務委託」事業である。
メインイベントである新庁舎が入居する民間施設の整備事業者の選定にあたって、審査基準の作成から協定締結までを支援する業務。実施要綱をみると、「交渉権者からの提案内容を基づき~精査及び整理するとともに~協定締結のための審査基準の作成及び協定書の作成」と本来、市が行う事務作業を一括して代行するものであることがわかる。
一般的なコンペを入社試験にたとえるとすれば、「庁舎整備支援業務」は、人事の採用活動を裏方として丸ごと任されるようなもの。賃借する予定の新庁舎の整備事業者を選定して、協定締結などの事務作業をサポートするのだ。
それほど重要な業務にもかかわらず、「公募の参加者は船場1社のみで、質疑なしなど突っ込みどころ満載です」と、関係者はあきれる。
驚くのが、これまた募集開始から選定発表までのスケジュールの短さだ。実施要綱の配布が4月9日金曜日で、プロポーザルの提出締切は4月26月曜日と、約2週間しかない。結果、応募は船場のみ。最初から船場しか受託できないように仕組まれていたのかと邪推したくなる。
庁舎整備支援業務委託は、とりもなおさず、事業者の選定にも一民間企業が深く関与することを意味する。評価行為には直接関与しなくても、少なくとも新庁舎本体について事業者からの提案情報に接する立場にあることは間違いない。
2021年5月にこの業務を受託したのを機に、船場は事業者の選定すら差配しかねない役所の重要業務を、役所の内部に入り込んで担うことになった。このことが、今回の市民交流プラザの選定疑惑にも暗い影を落としていると、別の関係者は指摘する。
「CCCは、新庁舎整備事業の支援業務を担当する船場を通して、施設内部の図面を入手できる立場にあります。選定されたのは両者による共同事業体であることから、この事業において両者は一心同体と言ってもいいでしょう」
となれば、そもそも役所に代わって事業者選定にかかわる、つまり公平公正を期すべき裏方の立場にいる船場が表舞台に出て、市民交流プラザという個別事業のコンペに参加すること自体が不適切だったのではないのかと、思わざるを得ない。別の関係者は、声を潜めてこう話す。
「東京五輪・パラリンピックで談合を主導したとされる電通をほうふつとさせます。電通は大会組織委に社員を出向させるなどして、実質的に事業者の選定を差配していました。つまり、受注側が発注側とも事実上、一体となっていたという構図。木更津市における船場は、その電通とよく似たポジションです」
前回記事でも紹介した、CCCグループ(船場は構成員)のプロポーザルの該当箇所を、もう一度みてみよう。
新庁舎の外観のパースしか報道用に公表されていないなか、CCCと船場のグループは、庁舎に併設された市民交流プラザ館内の配置図をプロポーザルに盛り込んでいた。
競合する事業者が事前の書面質疑で「提案書を書くにあたって、建物の図面データを提供してほしい」と要請したところ、市側は「現在、庁舎整備事業者と調整中のため」と拒否していた。それにもかかわらずCCCグループが館内配置図を提案していたことは、単なる偶然とかたづけるには、あまりにできすぎだろう。
木更津市の今回の事例は“和歌山市のケース”とそっくりだとの声が、早くもあがっている。
2020年6月にCCCプロデュースのツタヤ図書館として、南海電鉄・和歌山市駅前に全面開館した和歌山市民図書館では、木更津市の船場と似た役割を果たしたのがアール・アイ・エー(RIA)だった。
国土交通省の関連団体を通して、公共施設の再配置の調査実務を担当したRIAが、「和歌山市駅前に市民図書館を移転すべき」との提言を2014年にまとめた。市民図書館サイドが移転に反対するなか、就任したばかりの尾花正啓市長が強引に移転を決定。資金計画や権利変換計画、設計関連業務などは、すべてRIAが落札。CCC指定管理者選定も“出来レースだったのではないか?”との疑惑が浮上し、その証拠が、あとからゾロゾロと出てきた。
国の巨額の補助金をテコにして、めざした中心市街地の「賑わい創出」による経済効果は、全面開館から2年半たった今も、市民はほとんど実感できないままだという。駅前の真新しくオシャレな建物が観光資源としてそびえたつものの、湯水のごとく公金を注ぎ込まれたその新しさが、余計に古い商店街の衰退に拍車をかけているのではないかといわれている。
一方で、CCCが館内で営業するスターバックスと蔦屋書店が和歌山市に払う賃料や光熱水費が異様に安いことが、一事業者への利益供与ではないのかと、昨年末に市民団体から住民監査請求を提起されたばかり。
和歌山市が巨額の補助金をあてにして図書館を集客装置にしたのと同じく、木更津市も中心市街地活性化に関する巨額の支援を受けられるばかりか、飛行場周辺まちづくり事業では、補助率75%といわれる防衛省関連の補助金を見込んでいるという。
ある関係者は、こうぼやく。
「木更津駅前の地価下落率や駅前空洞化は、国内トップクラス。本当に困って、ツタヤに泣きついたのかもしれませんが、ろくに市民参加もない、こんな不透明なプロセスでは、いつまでたっても活性化などしないでしょう」
いったい、いつまで空虚な「ツタヤ図書館による賑わい創出」が続くのだろうか。
なお、筆者は本稿に記載した市民交流プラザの事業者選定にかかわる事実関係について問い質す質問状を、木更津市市民活動支援課、船場、カルチュア・コンビニエンス・クラブの3者へ2月16日にメールで送付したが、いずれからも回答はなかった。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト:外部執筆者)