今、食品添加物ナノ粒子の安全性が問題となっている。食品添加物に使われる金属ナノ粒子は、食品業界で包装材料や着色料、製造助剤として広く利用され、酸化第二鉄が赤色の着色料、二酸化チタンが白色の着色料や包装材料、二酸化ケイ素が粉末の物性改良などに使用されている。
食品添加物ナノ粒子は腸内での吸収性を良くするためにナノ化されており、食品とともに大量に摂取され、腸内細菌叢だけでなく身体全体への影響を与えることが指摘されている。なかでも二酸化チタンは日本では使用を認められているが、2021 年 5 月にEUでは使用が禁止された。欧州食品安全機関(EFSA)は、二酸化チタンの遺伝毒性に関する懸念は除外できなかったとして、科学的不確実性により食品添加物としての使用は安全とは見なせないという結論に達し、使用を禁止したのである。
問われる食品安全委員会の責任
食品の安全性をリスク評価する食品安全委員会は、二酸化チタンを含めて食品添加物の腸内フローラに対する影響評価を実施しているのであろうか。同委員会は設置された03年以降、新規に安全性評価の申請がされた食品添加物についてリスク評価を行ってきたが、同委員会設置以前に使用が認められた食品添加物については、腸内フローラに対する影響評価は行われていない。
10年に同委員会が決定した「添加物に関する食品健康影響評価指針」では、毒性試験は亜急性毒性試験及び慢性毒性試験 、発がん性試験 、生殖毒性試験 、出生前発生毒性試験 、遺伝毒性試験 、アレルゲン性試験などであり、腸内フローラに対する毒性試験は明記されていない。また、「令和元年、自ら評価にて、残留農薬、添加物、遺伝子組み換え食品が腸内細菌に与える影響を調査して、管理措置をとることを要望する提案があったが、具体的なハザードの記載がなかったことから、自ら評価の案件候補に該当しないと判断された」として、リスク評価をしないことを決めている。
しかし、腸内細菌問題は日々研究が進み脳腸連関が明らかになっている。たとえば大阪大学大学院薬学研究科特任教授の吉岡靖雄氏は「腸内フローラ解析を基盤とした食品ナノマテリアルの安全性評価」で次のように指摘している。
「ヒトの腸内環境は、常在する腸内細菌叢などの外的要因や消化管機能などの内的要因が絶妙に相互作用して正常に維持されている。このバランスは、食生活や食品中の化学物質によって変動し、3大死因である癌・心疾患・脳血管疾患や食物アレルギーの発症・悪化要因になる可能性が指摘されている。昨今の食環境に対する安全への懸念や健康への関心の高まりも相俟って、食品やその添加物には安全であることが強く求められており、今後の食品安全の確保においては、従来手法のみにとらわれることなく、消化管内環境や腸内細菌叢の視点から安全性を科学的かつ包括的に評価する必要がある」
食品安全委員会は、腸内細菌叢問題を食品健康影響評価の柱に据え、食品添加物の安全性の再評価作業に取り掛かるべきである。
(文=小倉正行/フリーライター)