元超新星のメンバーで、現在はソロで活躍するユン・ソンモが、7月21日公開の映画『ランサム』で邦画初主演を果たす。本格的なバイオレンス・クライム・アクションが展開される同映画で、誘拐実行犯の一員を演じたソンモ。コロナ禍やビザの関係でスケジュールがタイトななか、自身初となる手銃を使ったアクションや、全編日本語での演技に挑戦した舞台裏を明かす。
ーー今作では、日本映画として初の主演を務めました。オファーを受けた時の心境を教えてください。
最初にこのオファーを受けた時は2020年の春でした。その時は嬉しい気持ちと、自分にできるのかという不安の両方がありました。ちょうどコロナが流行り始めた時期だったので、日本に来れない状況が続いていたのも大きかったです。
お話を頂いてから2年間ぐらいは、基本的にオンラインでの打ち合わせのみで、対面では1回だけ(室賀厚)監督と打ち合わせがあったぐらい。いつ日本に行けるかもわからない状況で、日本語の勉強もモチベーションが下がってしまい、毎月毎月もう落ち込んでばかりでした。
結局、日本に来れるようになったのは、コロナが収まった22年ごろ。しかも来日してすぐ撮影が始まったんです。共演者の方とリアルで会うのは撮影現場が初めてで、最初はうまく会話できなくてストレスもありましたし、台本読みや役作りも短い期間で仕上げる形で大変でした。
ーー来日してすぐに撮影だったんですね。
撮影は18日間あって、中1日だけ休みで、あとはずっと撮影というスケジュールでした。僕のビザの問題もあり、現場が進行通りいかないと周りに迷惑をかけてしまう。そういう意味ではかなりプレッシャーでした(苦笑)。
他の共演者の方にもスケジュールを合わせてもらってますし、休む時間がなかったから大変だったと思います。過酷なアクションシーンもある中で、毎日ほぼ休みなく撮影に挑んでくださったチームの皆さんには感謝しています。
ーー日本の映画としては初めての主演、そのうえタイトなスケジュールで、かなり大変な現場だったかと思います。
ただ、監督はじめ共演者らも、僕のプレッシャーを和らげようとしてくれたのか、負担かけないよう気楽に接してくれました。撮影が大変な時でも、監督はなにがあっても怒らないし、時間がなくてもそのイライラをぶつけることも一切なかった。スタッフもお互い気を使い合いながら配慮してくれましたし、共演者たちも年齢関係なくみんな優しく接してくれて嬉しかったです。
アクション映画の現場だと、空気をピリッとさせるために、監督がめちゃくちゃ喝を入れて怒ったりすることもよくあるんです。ただ、ランサムの現場ではそういうこともなく、バイオレンスな作風と違って優しさに溢れた現場でした(笑)。
ーータイトなスケジュールだと、監督と事前に入念に行ってから撮影に挑んだのでしょうか?
それが逆に、これといった指示はなく、自由に演じていいよと言われたんです。監督は事前に、僕の過去の作品や舞台などの映像などを観て、どんな人間かを下調べしていてくれたみたいで……。本当に監督には感謝しかないですね。ランサムで演じた役柄は、割と素の自分が反映されていると思います。
ーーその役柄についてもお聞きしたく思います。ソンモさんが演じられているイ・ソジュンは、ニヒルでクールな印象ですが、素の自分と重ねて演じられた部分はありましたか?
僕が演じたソジュンは、誘拐の実行犯のメンバーで、謎に満ちた影のある悪い男です。僕は悪人というわけではないですが(笑)、影がある雰囲気は素の自分と似ていると思いました。僕自身も若い頃から両親と離れて暮らしているので、あまり感情を表に出さないほうで、どこか寂しがりやな一面もある。
今回演じたソジュンは、誘拐犯でありながらどこか誘拐することに抵抗があったりもする。その葛藤している部分はうまく演じられたのかなと思います。
あとこれは偶然ですが、ちょうど22年に、同じような役柄のアクション映画を撮影していたんです。その頃アクションスクールに通っていたので、その経験も活きました。
ーー主人公のイ・ソジュンは、映画の展開を握るキーパーソンでもあります。複雑な役回りだったかと思いますが、演じるうえで苦労されたシーンはありますか?
確かにソジュンは、いろんなキャラクターを使い分けて立ち回る重要な人物です。ただ自分としても、多重人格とまでは言わないですけど、裏表がある役柄を演じてみたかったので、楽しみながら演じることができました。
ーーアクションに関してはいかがでしたか?
実は今回、手銃を使ったのが初めてだったんです。これまでも肉弾戦が多かったり、自分が兵役に行っていた時も触れたことはなかったので、今作で銃撃戦のカッコよさに惹かれました(笑)
ーー銃を使う場面で、印象に残っているシーンはありますか?
クライマックスのシーンで、銃を両手に持って打つシーンは観て欲しいです!
ランサムのアクションは、どちらかというとハリウッド映画に近いような古典的な動きが多いんです。アクションをショーのように見せていく感じでしょうか。そのクライマックスのシーンも、銃を両手に持って同時に撃つようにリクエストがあり、最初は正直恥ずかしかったんです。どのようにポーズを取ったらかっこよく見えるか、銃を打つタイミングはどうしたらいいかなど、少し見せ物のようなニュアンスも意識しながら撮影してました(笑)。
ただ完成した映像をみたらすごくカッコ良かった。銃を打つタイミングで音楽が流れたり、インパクトが出るように監督さんがうまく編集してくれたり。ますます銃を使うアクションの虜になっちゃいました。
ーー4月の沖縄国際映画祭では、舞台挨拶も行われ、日本語を喋る機会も増えてくると思います。日本語の勉強はどうされていますか?
日本語は、ファンの皆さんとの交流を通して上達しました。コロナ禍でライブができない時も、オンラインでファンミーティングをしたり、ファンの皆さん1人1人と1分ずつ電話をしたりするイベントを定期的に開催していたんです。
そこでファンの皆さんといろいろ喋れたのが良い勉強になりました。ファンの方もせっかくお金を払って参加してくれているのに、自分が聞き返したり会話が通じないようなことがあったら、皆さんもがっかりしてしまうので、僕も集中して聞き取れるよう意識しました。
ーー最後に、ファンやこれから映画を観る方に向けてメッセージをお願いします。
今回、初めて全編日本語で挑戦したこともあり、足りないところも多々あると思いますが、そのぶん成長できた実感も大きいです。僕としてもランサムでどこまで結果を出せるか楽しみですし、今後の日本での活動に大きく左右する作品だと思っています。
そういう意味では、ランサムは僕にとってのプライドをかけた作品です。日本の皆さんには、温かい目線で僕が成長した姿を見守ってくれたら嬉しいです。
(取材・文=佐藤隼秀/ライター)