ビジネスパーソン向けSNSのLinkedInが公表した報告書「The Future of Recruiting 2023」は、今後は学位よりも能力やスキルを重視した採用が世界的に広がっていくと分析している。例えばイギリスでは、2021年から22年の間に「学位不問」の求人広告が90%増加したという。
まだまだ大学新卒一括採用の傾向が根強い日本では、4年制大学卒を応募条件に定めている大企業が多いが、学位不問の流れは日本でも見られるのか。人材研究所シニアコンサルタントの安藤健氏に話を聞いた。
日本の大企業における学位の位置づけ
日本の新卒採用時に学位不問にしている大企業は多いのか。
「日本国内でそうした動きはまだ見られません。というのも欧米と日本とでは新卒採用のスタイルが大きく異なるからです。欧米の主要な企業は『ジョブ型雇用』を採用し、職務や役割にあった人材を雇用します。そのため、新卒採用という概念がなく、学生であろうが社会人であろうが、その職務や役割にふさわしいかで判断されます。一方、日本国内は人に対して仕事を適用する『メンバーシップ型雇用』の企業が多く、学位を持った者を対象に新卒採用を行う仕組みを採用している場合が多いです。そのため、学位があって初めて応募できる企業が多いというのが日本の現状です」(安藤氏)
海外と国内では企業文化が大きく異なり、日本は世界的にみると珍しい雇用形態になるようだ。このメンバーシップ型雇用で学生を採用する限り、学位不問にしている企業が増えることはないかもしれない。中小企業でも同様の動きなのか。
「中小企業でも、大企業と同様に学位を持った人を対象に新卒採用を行う形態が大半です。まれに、その枠外から採用する企業もあります。例えば、アルバイトで採用していた人を、そのまま社員にするというもの。ただ、これは稀なケースです」(同)
大企業でも中小企業でも新卒の募集要項には「〇〇年大学卒業予定の学生」と書いてあることが多い。そのような企業に採用されるには、学位を持っていることが当たり前で、持っていない場合は特殊なルートを通らざるを得ないのが現実といえるだろう。
職種に関係なくても4年制大学卒の文系が求められる理由
文系学部はビジネスの実務と関連性が薄いといわれているが、それでも多くの大企業ではいまだに4年制大学卒が応募の条件になっている。
「国内企業にとって理系学生は貴重な存在となっており、取り合いになってしまっている現状があります。例えばITエンジニアの需要は多いのですが、大学で情報工学を専攻している学生は多くはありません。そこで大きい企業では文系出身の学生でも積極的に採用し、入社後の育成に時間をかけて戦力にしていきます」(同)
日本企業の場合、欧米企業と比べると、職種にこだわらずにさまざまな部署を経験させて、会社にコミットする社員を育成する傾向が強い。業界によって学歴や学位の重要度は異なるのだろうか。
「業界によって重要度が異なるというよりは、仕事内容によって重要度が異なります。現場仕事よりも、管理業務や会社経営に近い知能労働が求められる場合は、より学位が重要とされる傾向があるように思います」(同)
学位以外に企業が求めるものは「会社に合った人物像」
では企業が学位以外で重視している点は何か。
「各企業は、過去に採用した社員のその後の活躍度合いから、傾向値を分析して採用に活かしています。例えばSPIなどの適性検査の結果と仕事の成果を結び付けて評価し、採用時の判断の材料に活かしています。また論理的に説明できるか、再整理してわかりやすく話せるか、コミュニケーション能力を見極めているのが面接です。さらに過去の部活やサークル活動の経験から、チームワーク、ストレス耐性、主体性などを分析しています。各企業には求める人物像というものがあり、これを細分化して採用時にふるいにかけているようです」(同)
(文=LUIS FIELD、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント)