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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

今年、家計負担は前年比11.4万円増(4人家族)試算…物価上昇が鈍化

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
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出所:日銀、総務省

2024年の物価は伸び鈍化

 原稿執筆時点における直近10月の全国消費者物価を見ると、生鮮食品を除く総合が前年比+2.9%となり、19カ月連続でインフレ目標の+2%を上回っている。ただ、そのインフレ率はピークの23年1月から▲1.3ptも縮小している。背景には、それまでインフレ率押上の主因となってきたエネルギー価格の落ち着きや、食料品値上げの鈍化等が加わったこともあり、少なくとも2023年以降の日本のインフレ率は低下トレンドにあったことになる。

 さらに2024年を展望すれば、足元でエネルギー価格が落ち着いていること等もあり、消費者物価のさらなる伸び鈍化の可能性が高いだろう。というのも、足元ではエネルギー価格の元となる原油価格が昨夏の90ドル/バレル超えから70ドル/バレル台まで下がっている。また、総合経済対策による電気・ガス代の価格抑制策も4月まで延長されるためである。

 ただ、23年夏場にかけて上昇した輸入化石燃料価格の影響が遅れて電気ガス料金に反映されることから、年明けは一旦多くの地域で電気・ガス料金が値上げされることになる。また、政府による電気・ガス・ガソリンや灯油の価格抑制は24年4月までとされているため、政府が予定通り政策自体を止めるようなことになれば、5月のエネルギー価格が再上昇することにも注意が必要だろう。

 一方、生鮮除く食料品の価格については、11月まで円安傾向が続いてきたことから、今後もしばらく価格転嫁が続く可能性が高いだろう。ただ、23年10月の政府小麦売り渡し価格が、それまでの輸入小麦価格の下落を反映して▲11.1%低下した。このため、年末から年明けにかけての小麦関連製品の値上げは明確に鈍化することが期待される。また、海産物も値下がりしている。というのも、中国が原発処理水の問題を受けて日本からの海産物の輸入を停止している。このため、海産物を原材料とした食品や外食なども値上げペースが明確に鈍化することが予想されよう。

為替はドル安進行の可能性

 とはいえ、日本のエネルギーや食糧自給率は構造的に低いことは変わらないため、引き続き為替の動向も2024年の物価を大きく左右しよう。しかし、これまでの物価上昇の主因となってきたドル高も一旦ピークアウトしている。というのも、そもそもドル安のきっかけが、米国のインフレ率低下に伴う米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測の強まりである。そしてFRBのドットチャート、すなわちFOMC参加者の政策金利見通しの中央値を見ると、12月時点で24年に3回、25年に4回、26年に3回の利下げが予想されており、市場ではそれを上回るペースでの利下げが織り込まれている。

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 また、米国のインフレ率上昇の主因の一つとなった一次産品価格は世界経済の減速などを見越してすでにピークアウトしている。となれば、年明け以降は米国のインフレ率も低下傾向がより明確になるだろう。事実、FRBが+2%のインフレ目標とするPCEコアデフレーターを直近前月比が今後も続くと仮定してインフレ率を延長すると、早ければ24年の春以降にもインフレ率は+2%に近づくことになる。となれば、すでに利上げを打ち止めているFRBも、早ければ24年前半中にも利下げに転じる可能性すらあるだろう。

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 一方、円安の要因となっていた日本の貿易赤字も、輸入一次産品価格の下落や自動車を中心に輸出が回復していること等から縮小に向かっている。さらに、サービス収支の赤字もインバウンド消費の増加などにより縮小に向かっていること等も2024年の円高要因となろう。

 また、日銀の金融政策も円高圧力となる可能性がある。というのも、すでに日銀は副総裁の講演や総裁の発言などによりマイナス金利解除に向けての地ならしを始めている。そして、日銀が欧米の金融政策が利下げサイクルに入る前にマイナス金利解除を模索するとすれば、24年前半中にも日銀はマイナス金利の解除に踏み切る可能性がある。となれば、これも円高圧力となろう。

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今年の家計負担は+2.9万円/人程度

 以上を踏まえれば、今年のインフレ率も低下トレンドを続ける可能性が高いだろう。というのも、足元のインフレ率は約3分の2が食料品の値上げによるものであり、今後も小麦や海産物価格に加えて足元で前年比4割以上のペースで上がっている宿泊費を中心に伸び鈍化が期待されるからである。

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 実際、日経センターが公表している最新12月分のESPフォーキャスト調査によれば、CPIコアインフレ率は今後も伸びが鈍化する見通しとなっている。持続的なインフレ率の維持にはディマンドプルインフレが必要であるが、24年の世界経済は一段と減速が強まる可能性が高く、そもそも日本は海外と異なり依然として需要不足が続いている。このため、24年以降はコストプッシュインフレ圧力の低下により日本のインフレ率は低下を続け、エコノミストコンセンサスによれば、25年1-3月期のコアCPIのインフレ率は+1%台まで下がる見通しになっている。

 なお、ESPフォーキャスト通りに今後も消費者物価が推移すると仮定すれば、2023年のインフレ率+3.1%に対して2024年のインフレ率は+2.4%に鈍化することになる。そして、家計の一人あたり負担増加額は2023年に前年から+3.7万円(4人家族で+14.9万円)増加した後に、2024年はそこから+2.9万円(4人家族で+11.4万円)増加すると試算される。

 一方で、24年は一人当たり4万円の定額減税が実施される。このため、平均的家計ベースではインフレによる負担増加分を定額減税分で十分賄える計算となる。しかし、民間エコノミストのコンセンサスよりもインフレ率が上振れするようなことになれば、家計の負担はさらに増えることには注意が必要であろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

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永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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