まず灯りと情報の提供を
災害時には、まず灯りが、そして情報の確保がもっとも重要である。被災者の不安を取り除き、心強くさせ、初動の救援活動をスムーズにさせる。とくに今回の北海道の大地震は、深夜の闇の中で起きた。ほぼ同時に全域で停電が起こり、被災者は漆黒の闇のなかで連続する余震に震え、救いを待たなければならなかった。その不安と恐怖はいかほどであったろうか。
柴山准教授は、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)の災害時の利活用の研究を進めている。そこにEV等の持つ電力が利用できる可能性が高いからである。そればかりか、災害からしばらくEVは被災地の重要な交通手段として活躍できるのである。
EVで6500台の携帯電話の充電が可能
たとえば三菱自動車のアウトランダーPHEVには、1500ワットのコンセントが装備されている。ここから家庭の電気とおなじ100ボルトのAC(交流)電気が取り出せる。1500ワットあれば携帯電話の充電はもとより、部屋の照明、テレビ、電気炊飯器、エアコン等、家電製品のほとんどが(交互に)使える。災害時にもっとも求められる灯りと情報が、自動車からの電力によって手に入るのだ。
アウトランダーPHEVの電池に蓄えられる電力は13.8キロワット時である。1500ワット=1.5キロワットの電力であれば、9時間ほど利用できる。上手に節電して部屋の照明とテレビだけであれば、4日間ほどは持ちこたえられる。冬場でなければ救援を待てるエネルギー量である。
また、満充電した日産自動車の新型リーフの電池には40キロワット時の電力が蓄えられている。これをすべて使えば、6500台ほどの携帯電話の充電が可能だ。あるいは、北海道の全電力需要の380万キロワットの電力さえ、EV、PHV、FCVで供給できないわけではない。
行政も取り組む災害時のEVの利活用
こうした状況のなか、日産は災害時にEVを有効に使うべく、東京都練馬区とEVによる電力供給に関する協定を結んだ。協定の内容は、災害時には日産のディーラーにあるリーフの試乗車を無償で練馬区に貸与し、練馬区は日産ディーラーの急速充電器を優先して利用でき、被災地に電力を供給することなどである。また、練馬区は区所有のEVに加え、区民や事業者が所有するEVを災害時の避難拠点の電源として活用するとしている。
行政も「走る電源」としてのEVの利活用に取り組みを始めたということだが、災害大国日本列島にくまなく広がってほしい取り組みである。
(文=舘内端/自動車評論家)