レクサスのフラッグシップ「LS」は、異風堂々たる体躯が魅力的である。源流は1989年。アメリカでのレクサスブランド立ち上げでは、まず「LS」が投入された。その静粛性は世界を震撼させた。エンジンの真上にシャンパングラスを積み重ねても、グラスが崩れ落ちることなく、微振動すらしない。その映像は瞬く間に世界を駆け巡り、「レクサス=静粛性」を不動のものとしたのだ。
あれから30年、レクサスのフラッグシップは、さらに静粛性を磨き上げて誕生。世界のベンチマークになった。追う立場から追われる立場になったのである。
だが、レクサスは攻撃の手を緩めない。フラッグシップレクサスの走り味にカンフル剤を投入。さらなる頂へと駒を進めた。
全長5235mm、全幅1900mm、全高1460mm。堂々した佇まいに変更はない。誕生直後は、大幅にサイズ感を増したボディへの、もてあますことへの心配を耳にしたものの、街に馴染むにつれて、むしろ押し出しの強さが魅力的に映る。
今回試乗したプロトタイプは、主にハイブリッドシステムにムチを入れていた。開発責任者の旭利夫氏はこう言う。
「新型では、V型6気筒の3.5リッターエンジンを採用しました。環境性能をさらに高めるために、あえてダウンサイジングに挑んだのです。モーター駆動と合体させていますから、動力性能に不満はありません。ですから、さらに力強くさせようと開発を始めたのです」
特徴的だったのは、信号待ちからの発進や、低速走行時からの緩加速でも、力強い加速が彫られたことだ。モーターパワーのアシストが微低速から強調されているのだ。最大モータートルクのほとんどを低回転で吐き出しているといっていい。
もともと、モーターだけで132kWの最高出力を得ている。最大トルクは300Nmに達する。それだけのパワーがエンジンの推進力をアシストしているのだ。それが微低速から発揮されるとなれば力強いのも道理。これによって、フラッグシップセダンらしいダイナミックな加速スタイルとなった。
同時に、足回りにもメスが入った。コーナリングでの姿勢変化が増したことで、スムーズな乗り味になった。サスペンションストロークが増えたかのような印象だ。ロール剛性をいたずらに高めることでフラットライドを追い求めているのではなく、しなやかにロールさせることでタイヤの接地性を確保している。
「LS」は、とても難しい立ち位置にあると思う。環境性能なのか、乗り心地なのか、あるいは先進技術への期待なのか、もっとさかのぼればステアリングを握るドライバーのためなのか、後席で寛ぐVIPを優先すべきなのか。
そんな「LS」の次の一手は、動力性能とハンドリングを高めることだった。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)