2019年の東京モーターショーは一昨年同様、東京・有明の「東京ビッグサイト」で開催された。トヨタ自動車のホームグラウンドである「台場MEGAWEB」を長い通路で連結したり、これまでにない趣向をさまざまに凝らしたりと、なかなか見応えのある東京モーターショーになったと、ホッと胸をなでおろした。
というのも、数年前から下火説が消えてなくならない東京モーターショーが、ガラリとフルモデルチェンジをしていたからである。保守的だった体制を改め、革新に挑んだことは評価したい。
クルマをめぐる環境は大きく変化しており、かつては自動車ショーの花形だった東京モーターショーも、来場者の減少が叫ばれている。国内市場のシュリンクによって、輸入メーカーの出展取りやめも目立つ。憧れの外国車を一目見ようと東京モーターショーに人が押し寄せたのも過去のこと。そんな負のオーラが漂うなか、大鉈を振るったことは大歓迎なのだ。
ただし、出展車のほとんどは、自動運転と電気自動車(EV)化に集約されており、凡庸な空気感であることは否めない。主要な自動車メーカーが近未来のコンセプトカーを展示するものの、すべては予想の範疇であり、机上の空論のようでリアリティがない。ドキドキさせてくれる出展車は数少なかったのである。
ヤマハとカワサキの対照的な戦略
そんななか、バイクメーカーは気を吐いていたように思う。本田技研工業(ホンダ)とスズキを除いた2輪専売メーカーの鼻息が荒く、特にヤマハ発動機と川崎重工業(カワサキ)は対比が面白い。
ヤマハは徹頭徹尾、EV化を旗印にしていた。メインステージにはEVスクーターを展示。トライアルやモトクロスといったEVマシンを花道に並べていた。バイク競技もEV化の波が押し寄せているのだ。“史上最強のライダー”との呼び声高いバレンティーノ・ロッシが率いるロードレース世界選手権(モトGP)では、ガソリンエンジンが大活躍しているというのに、モックアップの展示すらしないという潔さである。ヤマハはあからさまにEVへのシフトを声高に叫んだのだ。
その一方で、筆者のハートを鷲掴みにしたのがカワサキである。ヤマハの戦略に背を向けるかのように、内燃機関を徹底的に突き詰めたマシンを投入、武闘派の狼煙を上げたのだ。
スポットライトを浴びながらターンテーブルで回るのは、EVではない激辛スーパーバイクの2台である。
「Ninja ZX-25R」は、249ccの水冷並列4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するフルカウルスーパースポーツ。スペック等の詳細は不明だが、恐ろしいパワーを炸裂させるに違いない。クオーターと呼ぶ250ccクラスに4気筒エンジンが投入されるのは、10年以上前まで生産していたホンダ「ホーネット250」が最後である。
ウルトラスーパースポーツ「Ninja Z H2」は、なんとスーパーチャージャー付きエンジンを搭載。排気量は998cc。最大出力は231ps。最高速度は400km/hに達すると噂されている。常軌を逸したバケモノである。
ヤマハがスーパースポーツを1台も発表せず、つつましくEVスクーターを壇上に上げているにもかかわらず、カワサキにはEVらしきバイクは1台もない。そればかりか、古き良き昭和の面影を残す「W800」を発表。「W1」のオマージュで懐古趣味を刺激する。今は亡き戦前のオートバイメーカーであった目黒製作所の版権を持ち、「カワサキ500メグロK2」として復活させている。
というように、ヤマハが近未来のEV一本打法なのに対してカワサキは、EVや近未来には目もくれず、モンスターガソリンマシンと昭和のバイクに特化しているのだ。その対比が面白い。
念のために付け加えるならば、カワサキはとてつもない技術力を備えている。時代の先を走る。だが、いざ公の場になると、大太刀をブンブンと振り回すのだから面白い。
果たしてどちらの戦略に軍配が上がるのか。しばらくこの2社から目が離せそうもない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)