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木下隆之「クルマ激辛定食」

超希少なBMW「イセッタ」、乗ってみたらまるでバイク!家電メーカーが開発した面影も

文=木下隆之/レーシングドライバー
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BMW「イセッタ300」
BMW「イセッタ300」

 自動織機の自動車部から発展したのがトヨタ自動車である。創業者である豊田佐吉が発明したはた織り機が成功し、その後、自動車産業に進出して今に至る。

 SUBARU(スバル)は航空機産業から発展した。太平洋戦争時に軍用機や航空機エンジンを開発、それがやがて自動車の開発に進出することになる。

 三菱自動車工業は、三菱造船が母体である。スバル同様、航空機などの開発生産技術の活用によって自動車に進出した。

 他方、独BMWは航空機の開発がルーツである。2輪に進出し、その成功によって4輪の開発に着手した。そんなように、自動車メーカーには必ずといっていいほど機械産業がルーツにあり、その発展型として自動車の生産がある。

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 そんなBMWにとって、「イセッタ」は特殊なモデルだといえよう。1950年代中盤、イタリアのイソ社が開発したイセッタに興味を持ったBMWが、ライセンス契約を結んだのが始まりだ。

 実は、それを物語る痕跡がイセッタにはある。イセッタの最大の特徴は、乗員が乗り込むドアが前開きであることだ。一般的に乗り込み用のドアは左右にある。イセッタは違った。それはおそらく、母体であるイソ社の業態と無関係ではなさそうなのである。

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 イソ社は冷蔵庫などの家電を開発生産していたメーカーだった。そう思うと、どこか合点がいく。イセッタが前開きであることと、冷蔵庫が前開きであることに近似性があるのだ。諸説あるものの、冷蔵庫の発想と技術がそのまま注がれたと想像すると都合がいい。

 そうでなければ、ステアリング系が組み込まれているフロントドアをパカっと大きく開けてまでしてそこから乗り込むことの理由が理解できない。運転姿勢は例外なく前向きだから、アクセルペダルもブレーキペダルも、もちろんクラッチペダルも、前向きで運転するドライバーが操作しやすいように前にある。そんな操作類を避けるために、身体を不自然に曲げながら乗り込ませてまでしてフロントドアにした理由が想像できないのだ。

 そう想像してみると、イセッタを生みだしたイソ社に興味が湧く。イタリアのイソ社は1939年が創業だという。冷蔵庫や暖房器具を生産していたものの、やがてスクーターの開発に着手。第二次世界大戦後のことだ。その後、オート三輪に進出し、イセッタを生み出した。

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 今回試乗したイセッタ300(株式会社スタディ所有)は初期モデルで、フロント2輪、リア1輪の3輪モデルである。今でいうトライクだ。BMWと同様に2輪メーカーがルーツで、のちにBMWがライセンス生産を開始したのも、そんな縁があったからなのかもしれない。

 イセッタを走らせると、その面影を意識することができる。走り味はバイクそのものである。全長は2285mm、全幅は1380mmと、軽自動車の3分の2ほどのサイズ。トヨタハイエースの荷室にイセッタを積み込んで運搬しているのを見かけたことがある。それほど小さいのである。

 エンジンは空冷単気筒298ccの4ストロークで、リアに積まれている。Hパターンの4速ミッションだ。リバースギア装備。運転方法はクルマなので特殊な操作は不要だが、感覚的にはバイクなので体を傾けながら走りたくなる。エンジン音がテケテケと響きわたり、そのダイレクト感もバイクそのものなのである。

 1769年、今から251年も前に人類初の蒸気自動車が誕生した。ガソリン自動車が誕生したのが1886年。134年前である。それから夥しい数のメーカーが生まれては消えていった。そのひとつがイソ社である。現存するイセッタをドライブする幸運を得て、往時の合従連衡に思いを馳せた。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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