ソニー、知られざる凄まじい変貌と解体的改革 阻む社員やOBら「内なる敵」たちの愚行
これは、ソニーという求心力ではなく、分社化の遠心力により各事業に対する社員のオーナーシップを高めて迅速な意思決定を行うことで、ソニーグループの機動力を高めることを目的とするものである。いわば、戦艦大和という巨艦から、高速駆逐艦の船団になるのである。
技術進歩と融合したグローバル化が加速し、企業は不確実性の高い事業環境下で非連続的かつ速い環境変化への迅速な適応求められる中、事業を多様化・分社化して本社を持ち株化するというソニーの意思決定は、「積極的惰性」を排除するという点でパナソニックに勝る。
これまで日本企業の生息領域であった、想定内の競合と切磋琢磨して競争をするというRBV(Resource Based View:競争優位の源泉を企業の内部資源に求める戦略理論)へ回帰するパナソニックと違い、ソニーは不確実性の高い環境に自ら身を置きにいっている。その結果、事業売却を含めた選択と集中の絶え間ない見直しによる収益力の強化が求められることになる。ちなみに世界的超優良企業とされるGEも、昨年9月に創業時からの伝統ある家電事業を売却し、今年の4月にかつての花形であったGEキャピタル事業のほとんどを売却すると表明している。
内なる敵
パナソニックの意識が日本国内に閉じこもる一方、ソニーは組織と意識共に真剣にグローバル化しようとしている。このソニーの改革を阻むものがあるとすれば、それは「内なる敵」であろう。代表執行役 副社長兼CFO(最高財務責任者)の吉田憲一郎氏は、「今所属している組織の事業を自由度高く運営できるかという点よりも、ソニー本社の社員であることが重要だという社員が少なくなかった」と指摘している。こうした「寄らば大樹の陰」の意識を持つ社員の存在が、その「内なる敵」の一つである。
そして二つめは、株主とはいえ、経営にもはや関係のない大物OBといわれる人物たちである。現役時代と経営環境が大きく変わっているにもかかわらず、現経営陣に対して経営改革に関する提言書を出すという時代錯誤がまかり通る日本企業の体質の問題である。
最後は、「ソニーはiPodをつくれた」といった日本人のソニーに対する強い願望である。「アップルに対抗できるユニークな製品をつくれるメーカー」というイメージからソニーが逃れられるかが、グローバル企業化を志向する同社の大きな課題であろう。現状のソニーは、それに向かって果敢に進んでいると考えられる。
業績低迷から復活を遂げ、15年3月期決算で過去最高益を更新した日立製作所の東原敏昭社長は、「V字回復までは赤字を抑えたりすればよい。これから先はどうやったら成長できるか、自分の頭で考えることだ」と語っている。今後、パナソニックとソニーのどちらに軍配が上がるだろうか。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)