世界で広がる捜査
問題のFIFA事件の発端は、リンチ米司法長官が先月27日に記者会見を行い、FIFA関係者9人とスポーツ関連会社幹部ら5人の合計14人を起訴したと発表したこと。当のFIFAは翌日からスイスのチューリヒ本部で総会を開くため幹部が集まっており、米司法省の要請を受けたスイスの司法当局が同日のうちに、起訴された14人のうちの7人を逮捕する連携プレーを見せた。
起訴容疑には、(1)10年の南アフリカW杯の開催地決定、(2)南米選手権(コパアメリカ)のテレビ放映権、(3)11年のFIFA会長選の3つに関する汚職のほか、賄賂の送金をめぐるマネーロンダリング(資金洗浄)も含まれている。関係者が受け取った賄賂は、91年から現在までの24年間で総額1億5000万ドル(約185億円)に達するという。
また、これらの容疑とは別に、スイス当局が早くから18年ロシアW杯、22年カタールW杯の招致をめぐっても汚職の疑いがあり、独自に捜査していた。その後、米連邦捜査局(FBI)がスイス当局に追随して、両大会の招致問題を捜査対象に加えた。FBIは事件発覚後に5選を果たしたものの、わずか4日後に辞任の意思表明を余儀なくされたFIFAのブラッター会長の起訴を目指すとされている。さらに、アルゼンチンやブラジル、ベネズエラなど南米各地でも捜査当局が本格的な捜査に着手したことが伝えられている。
161ページに及ぶ米司法省の起訴状は、米国に本社を置くスポーツウェアの多国籍企業カンパニーAがブラジルサッカー連盟とスポンサー契約を結んだ際に、資金の一部が賄賂として使われた疑いもある(米ナイキが自社ではないとのコメントを発表する騒ぎに発展した)ほか、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの米四大銀行の口座が賄賂の不正送金に使われたと指摘。米国では、これらの企業が実際に罪に問われるかどうか注目されている。
ダグラス・グラマン事件とロッキード事件
多国籍企業がからむ米国発の汚職といえばまず思い出されるのが、前述の68~69年に機種選定が行われた自衛隊機の導入をめぐる汚職だろう。78年になって、米証券取引委員会(SEC)の告発で発覚したダグラス・グラマン事件である。その2年前の76年に発覚し、「総理の犯罪」として日本社会を揺るがせた全日本空輸機導入をめぐるロッキード事件も、米議会上院の多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)の公聴会が発端になった事件だった。
両事件に共通するのは、複雑怪奇で、十分に全容が解明されたとはいえない点である。特にロッキード事件の場合は、今なお永田町などで米政府の陰謀だったとまことしやかに語り継がれている。