「とにかく“正社員”になりたい」という若者たちは多い。しかし、正社員とはいったいどういう定義なのか答えられる人はいないだろう。なぜならば、実は正社員という定義は存在しないからだ。
5月20日に開催された派遣法改正をめぐる衆議院厚生労働委員会では、塩崎恭久厚労大臣、坂口卓厚労省職業安定局派遣・有期労働対策部長が、「労働関係法令の上では、正社員という確立した定義は存在いたしません」と繰り返し答弁した。「あまり正社員という言葉を使っていると、細かい議論はなかなか難しい」「正社員というのは、極めてファジーな概念だ」とも述べている。
牧義夫議員(維新の党)は厚生労働委員会の質疑において、5月7日付本連載記事『嘘だらけの「正社員への登用試験」が不幸な人を量産!合格しても正社員になれず、低い合格率…』を取り上げ、正社員登用試験のある大企業に勤める契約社員も準社員になることができるだけで、正社員になることができる見通しが不透明であるという記述を紹介。派遣法改正でも同様の問題があるのではないかと指摘した。
例えば、派遣法改正案で「3年の雇用期限が到来した段階で派遣会社は、派遣社員に対して新しい派遣先を見つけるか派遣先に直接雇用を申し入れる、あるいは無期雇用に転換するなどの措置が義務付けられる」などとされていることから、「正社員になりやすい制度になる」などと喧伝されているが、この直接雇用とは派遣労働者が期待する「正社員と同等の待遇」を得られるわけではないのだ。
派遣社員が幸運にも派遣先に直接雇用されたとしても、有期雇用の契約社員や、職務・待遇が限定される限定正社員、準社員などになれたとしても、新卒後入社した生え抜き社員と同等の待遇を受けることはできない。
牧議員の「このままでは、その他の正社員と同じ福利厚生を受けられると誤解されるのではないか」という質問に対し、塩崎大臣も「誤解される可能性はある」と認めている。そうであれば、「正社員になれる」というのは若者に対しての単なる“つり広告”にすぎないことになる。現に、常用型派遣(特定派遣)の中には、派遣元への無期雇用にすぎないにもかかわらず、派遣先への「正社員の求人」であるとうたって求人募集するケースもあるというから注意が必要だ。
正社員のワナが潜んでいるということだろうが、今後も正社員の定義ができるとは到底思えない。派遣法が改正されれば、派遣社員の職務が拡大し、使い捨ても容易になる。企業は無制限に派遣を増やすことができるようになる。正社員ゼロの方向に進むのだ。終身雇用制度が崩壊し、正社員がゼロになれば、正社員の定義はいらなくなるのだ。
(文=小石川シンイチ)