これは、人間の脳で起きている、ホルモンの分泌による感情発生のメカニズムをアルゴリズムとして取り入れ、コンピューターで再現したもの。利用者の反応や本体のセンサーから得た情報、さらにインターネット上の情報などを基に“好き”“きらい”などの感情が生成され、その感情に基づいた反応をするというのが、主な仕組みとなるようだ。この感情エンジンの搭載により、ペッパーは人の感情を読み取るだけでなく、そこから自分が感情を持ち、より人間らしい反応をするようになったわけだ。
そして感情エンジンの開発に関して、孫氏は「昨年の発表会当日の夜中2時に目が覚めて、感情エンジンのベースとなる仕組みを思いつき、すぐに電話をかけてエンジニアに(感情エンジンに関する技術の)特許を出願しておくよう指示した」と話している。それゆえ感情エンジンの開発も、ペッパーの発表以降急ピッチで進められたと考えられ、目玉機能の開発に時間がかかった分、発売も後ろ倒しされたと推察される。
もう1つの理由となるのが、生産上の問題だ。ペッパーは可動部分が多く、従来のIT関連機器と比べ、生産には手間を要する。さまざまな機器の大量生産実績がある受託製造大手の鴻海科技集団(フォックスコン)が製造を担当しているとはいえ、生産技術の確立やラインの確保などを考えると、人型ロボットの大量生産には時間がかかるのは確かだ。
ペッパー自体は企業を中心として高いニーズがあるというが、一般販売にこぎつけるには、安定した生産体制の確立が大きな課題だ。そこでソフトバンクは、ロボット事業を統括するソフトバンクロボティクスホールディングスに、フォックスコンから出資を受け入れることで量産に力を入れるべく関係を強化している。ちなみにフォックスコンと同時に、ソフトバンクが出資しているアリババからも新たに出資を受け入れ、世界展開も視野に入れている。グループ全体でロボット事業を強化する方針を見せている。
ロボットの“頭脳”を掌握するのが狙いか
ようやく発売にこぎつけたペッパーだが、約20万円の本体価格に加え、保険パックも含めると年間約30万円もの維持費用がかかることを考えれば、一般販売がなされたとはいえ、誰もが容易に買えるものではない。それゆえ購入層がかなり限定されるのは確実で、販売も店頭やイベントなどでの接客などを目的とした、法人向けが主体になると考えられる。