孫氏が「現在でも製造コスト以下で販売している」と話す通り、ハードや機能面を考慮するならば、これ以上安価に提供するのが難しいのも理解できる。それだけに、ペッパーを積極販売して一般家庭に普及させようというのは、現時点ではやや無理があるだろう。
もっともソフトバンク側も、そうしたことは承知の上でペッパーの発売に至ったといえるだろう。実際孫氏は、ロボット事業は「5年くらいは事業全体の売り上げの1割に満たない程度」と話しており、短期的に収益を上げる事業とは考えていないことがうかがえる。
では、ソフトバンクは何を目指しているのかというと、それはペッパー、ひいてはロボット事業を同社の主力事業へと育てることだ。孫氏は「30年後にはロボットの数が、地球上の人口を超える可能性があると思っている」と話しており、技術の進歩によって今後さまざまなかたちでロボットが生活の中に入ってくると予測しているようだ。
その上でソフトバンクは、従来の日本企業が重視してきたロボットのハード部分ではなく、その頭脳となるソフトウェア部分に力を入れることで、今後の拡大が見込まれるロボット事業に取り組む方針を示している。現在のスマートフォンにおけるアップルやグーグルがそうであるように、プラットフォームやクラウドなどソフトウェアの基礎部分で主要なポジションをいち早く確保することで、ハード・ソフトを含めたロボット業界全体での支配力を強めたいというのが、ソフトバンクの狙いと見ることができそうだ。
そうしたロボットの頭脳開発を進める上での足掛かりとして、ソフトバンクはペッパーの商用化で先手を打ち、早い段階からデータと技術の蓄積に乗り出したといえる。それだけに同社のロボット事業は、短期的なペッパーの販売動向よりも、中長期的にiPhoneやAndroid同様の成功体験を得られるかどうかを注視して評価する必要があるといえそうだ。
(文=佐野正弘/ITライター)