安倍晋三首相が執念を燃やす安全保障関連法案可決のために今国会会期の大幅延長に踏み切った結果、時間切れで廃案になるとみられていた労働関係法案が続々と本格的な審議に付される可能性が高まってきた。
その第一は、当初の会期では参議院での審議が不可能とされていた「労働者派遣法」改正案だ。同改正案は事実上、派遣社員の受け入れ期間の上限をなくすもので、派遣社員の固定化につながるとの指摘が多い。第二が、審議が塩漬けになっていた「労働基準法」改正案だ。こちらは、労働した時間ではなく、成果に見合う賃金を支払うものと報じられている。企業側が人件費を節約できると期待される半面、社員にとっては“残業代カット法案”だと揶揄されている代物だ。
一昨年、民主党政権の「何も決められない政治」を批判して政権を奪回した自公連立政権・与党は国会延長を好機ととらえて、なるべく多くの法案を可決する構えだ。しかし、安全保障関連法案だけでなく、副作用の大きさが指摘されている法案をまとめて強引に成立させようとする姿勢は、政権への批判を強める結果を招くことになるかもしれない。
困難だった各種法案、一気に成立の動き
6月22日、政府・与党は衆議院本会議で、24日までだった今国会会期を95日間延ばして9月27日までとすることを賛成多数で決めた。この延長幅は通常国会の延長としては過去最大だ。背景にあるのは、集団的自衛権の行使容認などを盛り込んだ安全保障関連法案である。安倍首相自身は答弁で「十分な審議時間をとった。国民の理解を深めていきたい」と述べている。
しかし、最後は衆議院の議席という数にモノを言わせる案もあるらしい。自民党内では、衆議院を通過させて参議院に送付、参議院が60日以内に議決しなければ否決したものとみなす憲法の規定を盾にとって、圧倒的な議席数を持つ衆議院で3分の2以上の賛成による再可決を行い法案を成立させるプランが検討されている。
異例の会期大幅延長を受けて与党内で浮上してきたのが、時間切れで困難とみられていた一連の法案成立を改めて目指す動きだ。前述した2本の労働関連法改正案のほか、JA全中(全国農業協同組合中央会)の監査・指導権を廃止する「農協法」改正案や、カジノを中心とする総合型リゾートの開発を推進するための「カジノ法案」が、候補として名を連ねている。
このうち農協法改正案は、本来ならば国会が閉じていたはずの6月25日、衆議院農林水産委員会で自民、公明、維新の3党の賛成で可決した。6月30日には衆議院本会議で可決され、今後は参議院での可決を経て会期末までに成立の見通しとなっている。同法案は、JA全中の一般社団法人化と全国各地の農協に対する監査権の廃止を盛り込んだものだ。安倍政権は岩盤規制改革の目玉だと主張している。だが、株式会社による農地保有など農業全体の改革に目を瞑り、改革を農協組織の中、それもJA全中本体のみに絞り込んだ内容だ。安倍政権の常套手段である“やったふり改革”の典型例といってもよいだろう。