ROEブームの仕掛け人は安倍晋三首相である。昨年発表された日本再興戦略で、日本企業のROEを高めて海外投資家をもっと日本に呼び込もうと訴えた。2014年に金融庁が作成した「『責任ある機関投資家』の諸原則」、いわゆる「日本版スチュワードシップ・コード」は、「物言わぬ株主」といわれてきた生命保険会社などの機関投資家に「物言う株主」になることを求めた。加えて、東京証券取引所が6月に導入した「コーポレートカバナンス・コード」と呼ばれる企業統治の指針は、収益を上げて資本効率を高める目標を、株主に明確にするよう経営側に求めた。
こうした流れを受け、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、顧客である機関投資家に今年からROE基準に基づく助言を始めた。過去5年間の平均と直近のROEが5%未満の企業に対し、社長や会長など経営トップの選任議案に反対するよう株主に勧めた。また、資産運用会社の野村アセットマネジメントは、3年連続でROEが前年を下回った企業について、5年以上在任する取締役の選任に原則として反対する、とした。
ソニー、シャープ
では、直近の決算でROEが5%未満だった企業の役員選任の賛成率をみてみよう。
15年3月期連結決算が2年連続の最終赤字となり、上場以来初の無配となったソニーのROEは▲5.5%で、平井一夫社長再任への賛成率は88%だった。同社が新しい中期経営計画でROEを最重要指標とした狙いについて、株主総会で質問が出た。
「ROEは経営の目的ではなく、目標であり規律だ。短期的な極端なコストダウンや投資の削減は考えていない」(吉田憲一郎副社長)
利益が出なくても分母の資本を削れば、ROEの数値は改善される。数字のマジックに走る企業が少なくない中、ソニーはそうした方策は取らないとの方針を示した。
15年3月期連結決算で純損益が2223億円の赤字となったシャープのROEは▲197.4%。株主総会では「株主に損をさせておいて、高橋興三社長は平気で3年やろうとしている」との批判が出た。ISSは高橋社長と水嶋繁光副社長の取締役再任議案に反対するよう株主に勧めた。賛成率は高橋社長が86.6%、水嶋副社長が87.0%にとどまった。高橋社長は前年に比べて11%も下がった。