セールの前倒しは、百貨店業界に決してプラスをもたらさなかった。夏物の需要の高まる7月、冬物が最も売れる12月に大幅に値引きしてしまうため、利益率が低下。自らの首を絞める結果を招いた。
●伊勢丹がユニクロ化。その公算は?
百貨店でのファッション関連商品の価格の決定権を持つのはアパレルだ。セールについても時期や下げ幅をアパレルが決める。そもそも百貨店は場所貸し業であり、アパレルから売り上げにスライドした家賃をもらっていた。ところが三越伊勢丹の大西社長は「夏物衣料品のセールを盛夏の7月1日から始めるのは商売上、おかしい」と主張して、セールの2週間の後倒しを提案した。アパレル大手のオンワード樫山が同調して、夏のセールは例年より2週間後れで始まった。
しかし、大手百貨店の夏のセールは低調に終わった。大丸松坂屋百貨店は例年通り7月1日から、高島屋や阪急阪神百貨店は1日と13日からの2段階方式でセールスを打った。
結局、7月の売上高は三越伊勢丹だけでなく、大丸松坂屋、そごう・西武、高島屋、阪急阪神と、どこもかしこも前年実績を下回り共倒れ状態となった。
7月1日からのセールの場合、前週の売り上げは極端に下がる。2週間後ろ倒しした結果どうなったかというと、買い控えが1週間から3週間へと延長されただけに終わった。
セールの後倒しは消費者を混乱させただけで、百貨店の売り上げは減少した。プライスリーダーのオンワード樫山が、冬物のバーゲンセールを例年通り年明けの1月2日から始めると決定。初売り&福袋と同時に始まる冬物のセールは消費者に広く認知されているので、例年通りやるべきだとした。オンワード樫山の決定にほかのアパレルも追随。三越伊勢丹を除く大手百貨店は1月2日からのセールで足並みを揃えた。
そこで、大西社長はSPAと呼ばれる製造小売りの展開に来年から踏み出すことにした。将来はSPAを利益の源泉にするという。
SPAとは、自社で商品を企画、生地を調達したうえで国内の縫製工場や織物メーカーに生産を委託し、商品を全量買い取る。ユニクロの成長力の原動力となった手法だ。
三越伊勢丹はこ、れまで衣料品の大半をアパレルメーカーからの供給に頼ってきた。売れ残った商品は返品できるため、在庫を抱えるリスクは小さかった。高級SPAを導入すれば、全量買い取ることになると在庫リスクは大きくなる。また、自社生産に乗り出すことで、これまでは二人三脚でやってきたアパレル各社とはライバル関係になる。