1ドル=120円台の円安が定着して、日本の製造業に活気が戻っている。しかし、国内でB to Bビジネスを行っている部品メーカーの業績はまだら模様だ。
というのは、円高時代に顧客のメーカーが中国やアジアに製造拠点を移してしまっているからだ。円安になったからといって、海外の工場が日本に戻っているわけではない。
そんな中、小平直史社長率いる太陽工業が、業績をV字回復して注目されている。同社は、プレス成形により製造した金属部品を完成品メーカーなどに納めている受注製造業者だ。
長野県諏訪市に本社を構える同社は、諏訪地区を代表する部品メーカーとして知られている。部品を成形する金型も自社製造しており、域内には3つの工場と、部品にメッキを施す関連会社のハイライトを擁する。
太陽工業は1959年に創業され、弱電メーカーへの金属部品の製造供給で順調に業容を伸ばしてきた。2007年には年商70億円を超え、経常利益率も8.5%と代表的な「地場の優良企業」に育った。
しかし、それをピークに売り上げが激減していく。
「顧客のメーカーが、円高のためにアジアへの製造移転を本格化してしまったからです」と、小平社長は筆者のインタビューに答える。その結果、年商は10年に40億円を切るなど、業績の悪化は急を告げた。
「いくつかの戦略を実行しました。ひとつ目は、顧客セグメント(顧客の分野)を新しい構成にすることです」(小平社長)
それまでは、ソニーなど弱電メーカー関連への納入率が9割近くを占めていたが、自動車用部品に的を絞り、新規顧客を開拓したという。これは、戦略的にまったく正しい判断だった。
というのは、金属プレス加工の販売額統計で「電機・通信」は06年に1027億円とピークを記録しているが、14年には380億円と、3分の1近くまで激減しているのだ(日本金属プレス工業協会統計、以下同)。
「精密」も06年の144億円から、14年には60億円と半分以下に落ち込んでいる。これらの分野を重視していた金型業者や部品業者の倒産は、ここ数年絶え間なく続いている。
ところが、「自動車」は06年の7773億円から14年の7872億円と増えているのだ。
小平社長は「太陽工業の自動車産業向けの納入率は、今年70%を超える予定です」と語る。客先業態の状況変化を見極めた、見事なセグメント・シフトだ。