本体に復帰した後の吉田氏は、「経営再建の鍵は規律徹底にある。責任の所在が曖昧な今の丼勘定経営では、どんな再建策も絵に描いた餅になってしまう」(ソニー関係者)と確信したようだ。
誤解
この規律徹底策が、新中計の「新しい組織及び人事の体制」に盛り込まれた「分社化推進」にほかならない。新中計ではその理由に「結果責任・説明責任の明確化」「持続的な利益創出を念頭に置いた経営」「意思決定の迅速化と事業競争力強化」の3つを挙げている。
だが、この急激な経営方針変更は社員の誤解を招いた。
例えば、2月18日の新中計発表の記者会見では、「冗舌で、しばしば真意がわからない話し方をする」(ソニー関係者)といわれる平井社長が、分社化推進の狙いについて「権限の委譲と責任の明確化」という大木の部分を強調せず、「ソニー本体に残る事業も、これから順次分社化する」「小さな本社でグループ経営戦略のスピードを上げる」など末木の部分も冗舌に語ったため、「分社化の真の狙いは、赤字事業売却の意思決定を迅速化するためだ」(会見に出席した証券アナリスト)と解釈され、その文脈で報道するメディアが少なくなかった。
このため、平井氏の元には社員から分社化反対のメールが殺到。その後、ソニーが設定したメディア各社合同のグループインタビューで「分社化は、赤字事業の売却や撤退を意図したものではない」と釈明しなければならなかった。
平井氏は「分社化で権限委譲と責任の明確化を進め、経営再建を軌道に乗せる」と言う。しかし社員は「今度は赤字事業切り売りが本格化する」と、経営陣と真逆の不安を抱いている。ソニー関係者は「新中計発表以降、社内では経営陣と社員の対立も深刻化している」と打ち明ける。
求心力の低下
では、ソニーが新中計で成長領域に位置付けたデバイス、ゲーム・ネットワーク、映画・音楽の3分野の成長実現性は、どれほどあるのだろうか。
証券アナリストは「一番の懸念は、収益成長の持続性に関する保証が何もないことだ」と指摘、次のような不安を口にする。
リストラに成功した家電大手は、いずれも消費者向け事業の縮小で復活してきた。例えば、パナソニックは車載電子機器・部品や住宅設備、日立製作所も社会インフラと事業者向け事業を柱に再成長の道をたどっている。ところがソニーは「消費者向けの脱エレキ事業」を唱えているものの、勝算があるわけではない。脱エレキに代わる事業が育っていないからだ。