エコの意識が高まる昨今、エンジンを搭載せず排出ガスを発生させない電気自動車(EV)が、世界の自動車市場で改めて注目を集めている。国内メーカーでみると、国産車の代表的なEV、日産リーフの2018年世界販売台数は前年比84.6%増の8万7149台。EV、プラグインハイブリッド車(PHV)のなかでは世界3位の販売台数となっている。
こういった状況下で、国内メーカーからEVに関する新たな動きが報じられた。イギリス、ドイツ、フランス、ノルウェーといったEV需要が高い国を対象に、ホンダが初の量産EV「ホンダe」(Honda e)の予約受付を今年5月から開始、2020年春に納車見込みと発表したのだ。
まずは海外の限られた国での先行販売にはなるが、これが国内外の国産EVシーンにインパクトを与えるものになるのではないか。国内外の自動車事情に詳しいAll About「車」ガイドの小池りょう子氏に話を聞いた。
前衛的なホンダが満を持してのEV展開?
まず、国内のEV市場の現状はどうなっているのか。
「NCS(合同会社日本充電サービス)の充電ネットワークが全国約2万基以上も設けられており、EVの国内インフラ面はそれなりに整備されてはいますが、現状、日本のEVユーザーは欧米に比べて決して多くありません
(小池氏)
実は国内でのEV普及率は調査元にもよるが、現状1%程度といわれている。わずかに増加傾向にあるものの、2019年3月の新車販売で普及率5割を超えたノルウェーなどEV先進国とは比較にならない。
「1997年にトヨタが世界初の量産ハイブリッド車(HV)のプリウスを発売したことで、トヨタをはじめ、国内主要自動車メーカーはHVの開発に舵を切りました。これにより国内のEV開発は後手後手となり、世界的にEVへ移行する流れになっても、保守的傾向にある日本のユーザーがなかなか受け入れられない状況になっているのでしょう」(小池氏)
EVに近いエコカーといえば日産のNOTE e-POWERなど売上が好調な車種があるものの、EVでみると日産のリーフが前述の通り躍進しているが、あとは三菱のアイ・ミーブくらいしか一般用のEVは販売されていない。そんな状況で、ホンダeが発売される意味とは?
「本来、ホンダは二輪や船舶にも着手するなど前衛的なメーカーです。そのホンダがこれまでEVをつくってこなかったというのは、今まで国内外のEV市場の様子をずっと観察していたのかもしれません。もしそうだとすれば、車好きのために車をつくるメーカーでもあるホンダにとって、“満を持してのタイミングが今だった”ということなのではないでしょうか」(小池氏)
日本モデルの展開は意外と早い2020年中?
そこで、EV需要の高いヨーロッパ4カ国での先行発売となるわけだ。ちなみに、ヨーロッパは各国の政府が率先して排出ガスによる温暖化対策に乗り出しており、ノルウェーは2030年以降はEVとHV以外は販売禁止に、ドイツも2030年、イギリスとフランスは2040年からディーゼル車とガソリン車の販売が禁止となる予定である。
「将来的にディーゼル車やガソリン車が売れなくなるのですから、今後ヨーロッパのEV需要はさらに高まります。日本のメーカーも他人事ではなく、国内の小さいマーケットだけに向けてガソリン車をつくり続けていても先細りになってしまう。ヨーロッパや同じくEV化を進める中国向けに自動車を輸出するためにも、EV開発に力を入れる必要に迫られているのです」(小池氏)
これを見据えてのホンダeかと思われるが、さらにヨーロッパは道幅が狭かったり、街中を走る必要性があったりと道路環境が日本に近い。ホンダeがヨーロッパで受け入れられれば、ヤリスという名前でヨーロッパにて先に評判となったトヨタのヴィッツや、アメリカで展開したレクサスのように、“海外でヒットした”という看板を引っ提げて逆輸入ができる。そうすれば、国内での販売台数もある程度見込めるというものだろう。
では、肝心のホンダeの国内発売はいつになるのか。
「ヨーロッパホンダの公式発表では、各スペックや『2020年春に納車』といった記述はありますが、価格や日本モデルの発売日については一切記載がありません。普通、国内メーカーが海外で先行展開する場合、あわせて日本モデルの発売の有無や発売時期、未定なら未定と発表するはずなので、これは意味深。ただし、一部メディアがホンダ広報に問い合わせたところによると、2020年から日本市場に導入予定との情報もあります。公式発表ではないので、なんともいえないですが、日本でもちゃんと展開するようですね」(小池氏)
EVはガソリン車より100万円以上も割高に?
ということでヨーロッパ同様に、来たるべきEV時代に向けて、日本の消費者もしっかりEVを受け入れる準備をしたいところ。それでも、日本におけるEV普及で、もうひとつ大きな課題がある。
「EVがいまいち普及しない最大の理由は、その車体価格の高さ。エンジン車をPHVにするだけで50万円程度高くなるのに、たとえばリーフの場合、同じスペックのガソリン車があると想定した場合、200万円程度で購入できるかと思いますが、実際のEVのリーフは315万円から。ガソリン代がかからないとはいえ、元を取るのに非常に時間がかかりますし、その前にバッテリーがダメになってしまう可能性もある。実質得をできないのであれば、環境のためだけにあえて高いお金を払って乗り替えようとする人は少ないでしょう
(小池氏)
日本でもエコカー減税などが導入されてはいるが、ヨーロッパのEV先進国は、政府や現地メーカー主導で補助金や減税などの制度が非常に充実しており、EV普及戦略に積極的だ。「日本は環境に対して意識が高いと思いがちだが、この分野ではヨーロッパには敵わない」というのが小池氏の意見である。
そうはいっても、EV開発に消極的と思われていたトヨタも、今年6月に行われた「~トヨタのチャレンジ~EVの普及を目指して」という会見で、来年に超小型EVを発売すると発表した。遅れは取っていたものの、ここにきて日本産EVもにわかに活性化してきている。あとは量産体制ができて車体価格自体が安くなっていったり、ヨーロッパのように安く買える制度がさらに整っていったりすれば、「次はEVを買おう」というユーザーも増えてくるはずだ。
地球の環境は悪化の一途をたどっている。日本も令和時代のうちにEVを自動車市場のスタンダードにして、国内メーカーには“地球にやさしい自動車社会”を目指してほしい。
(取材・文=A4studio)