国の責任が問われている
吉本興業所属タレントの反社会的勢力への闇営業問題は、芸人個人の問題から吉本の法令順守・社会的責任、さらに国の責任が問われる状況になってきた。芸人や吉本社長の記者会見、さらには吉本芸人のSNS上での発言等で法律的に問題となりそうなことは4つある。そうである以上、国は調査をして全貌を把握し、なんらかの判断をする必要がある。
(1)パワハラ
吉本の岡本昭彦社長は記者会見で、宮迫博之らとの会談時に言った「テープ録ってないやろな」という発言は冗談、「全員、クビにする」は親心と述べたが、これはパワハラが濃厚な発言といわざるを得ない。
パワハラについては、訴えがないので国は動くことはできないかもしれないが、一般論としても「社長の『全員クビだ』という発言はパワハラに該当する。社長がパラハラをする企業とは手を結べない」くらいのコメントをするべきだろう。
(2)口頭契約
口頭契約が法律的に認められるといっても、その内容が明らかでない場合は認められるのだろうか。吉本側に「いつ、誰と、どんな話をしたのか」という証拠があるのだろうか。それとも、本当に口頭だけのやり取りだったのだろうか。
吉本と所属芸人との契約は、法律的には業務委託契約なのか、マネジメント契約のいずれかに該当するのか筆者にはわからないが、いずれにしても口頭だけの契約は、弱者(芸人)たちに対する一方的なものだったのではないか。公正取引委員会は「優越的地位の乱用などを誘発する原因になり得る」とコメントしているが、記者会見で指摘するだけでよいのか。正式な行政指導をする案件ではないだろうか。
(3)芸人への対価
芸人へ支払われた仕事の対価が1円といったことが事実であれば、それが正当な対価といえるのか。芸人に仕事を委託した対価が極端に少ないのであれば、そのことは口頭で了解を取ったのか書面等で承諾を得ているのか、もし一方的な対価の支払いであれば、それが妥当なのかどうかを国は判断するべきだ。たとえどんな仕事であっても、最低保証はするべきだろう。
(4)社員の労働実態
吉本社員の労働条件が過酷ではないかという疑いがある。国は、働き方改革を推し進めている。芸能界だけ例外ということはないはずだ。労働時間、休日や有休、残業などの労働条件は適正なのかどうかを調べるべきだ。
(2)~(4)については、国(公正取引委員会や厚生労働省等)が、吉本に立ち入り調査をすれば簡単にわかることだ。吉本と国は今までも、さらに今後も税金を投入して共同事業をする予定になっている。国がタイアップする企業が、超ブラック企業かもしれないのだ。反社勢力との交際だけでなく、会社の労働問題が浮上してきているのだ。このままうやむやにされては、多くの国民は納得できないだろう。他の企業であれば当然、国によるなんらかの行政処分がなされてしかるべきではないだろうか。
国や地方自治体は、談合が明らかになった企業に対しては、どんな大企業であっても「1年間取引停止」といった処分を下す。欧米諸国では、こうした企業は市場から排除されるのではないだろうか。吉本が来年の東京五輪にどの程度関与しているかわからないが、大阪万博には大きく関与している。そんな企業と手を結んでいる国に「おもてなし」されても、訪日外国人は喜ばないだろう。
吉本だけを特別扱いすることだけは許されない。国が動かないのであれば、野党には国会でその理由を追及してほしい。
テレビ局の責任
吉本をここまで大きくしたのは、紛れもなくテレビ局である。もちろん、国民の支持があったことは事実だが、直接報酬を提供したのはテレビ局であり、その金額は膨大なものだろう。今までは実態がわからなかったが、今、その実態が浮かび上がってきた。ブラック企業の可能性がある。
番組内では吉本批判をすることもあるが、取引は継続している。もちろん、すぐに手を切れないだろうし、全容も明らかになっていない。しかし、吉本に対し「このままでは取引できませんよ。国民が納得できる改善策を示してください」といった通知は出すべきだろう。
テレビ局には、大きな社会的責任が求められる。どんなに番組で批判しようが、特定の企業と取引を継続していれば、人々は「その企業は問題ない」と思うだろうし、逆に企業側は「一時的に辛抱すればいいだけ」となる。問題のある企業に対しては毅然とした態度を示さなければいけないのが、テレビ局のはずだ。国やテレビ局をはじめとする外部が動かなければ、吉本は変われないだろう。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)