東芝の不適切会計が大きな問題になっている。その内容は多岐にわたるが、かなりの部分は相当の悪意が感じられる。当事者たちは不正に手を染めている自覚があったはずだ。東芝は組織としてそれを止められなかったわけで、結局のところ、問題の所在はコーポレートガバナンス(企業統治)にあるといえる。
今年6月1日から、上場企業に対するコーポレートガバナンス・コードの適用が始まった。これは、企業におけるコーポレートガバナンスの強化を狙って金融庁が中心となって取りまとめたものだ。何かと注目を集めているのは「社外取締役2名以上の選任」などだが、本稿ではもっと根源的な部分に焦点を当てたい。
それはコーポレートガバナンス・コードが採用している「原則主義(principle base)」という考え方だ。
原則主義とは
原則主義の対極にあるものを細則主義(rule base)という。これは、校則でいえば「あれもダメ、それもダメ、これはこうしなければならない」というようなことが細かく決められている校則だ。そのような校則には、「髪は染めてはいけない」「化粧はしてきてはいけない」というような具体的なルールが数多く存在する。
一方、原則主義を校則に例えるならば、「人の迷惑になること、健康を害することはやってはいけません」とだけ定められているようなものだ。具体的なルールが必要なら、あとは学級会を開いてクラスごとに決めなさいというスタンスだ。
原則主義は、イギリスに端を発する法概念だ。一方、細則主義はドイツやフランスなどの大陸系の法概念である。ドイツを参考に法制度を整備してきた日本は、基本的に細則主義に基づいている。しかし、最近になって原則主義に基づく制度が入り込んできている。コーポレートガバナンス・コードはそのひとつだ。
細則主義では不正は防げない
原則主義はある意味でスカスカのルールなので、なんでもありの無法地帯の世界になりそうな懸念が持たれがちである。しかし、実はそうではない。原則主義のほうがむしろ不正には強く、逆に細則主義のほうが不正には弱いとさえいわれている。
なぜならば、細則主義は形式主義に陥りやすいからだ。例えば、「化粧をしてきてはいけない」と言われれば、「帰り道ならいいのか」「休日ならいいのか」という話になってしまう。若いうちから化粧などしたら肌に悪く、ひいては健康にも悪いからそのようなルールが存在するはずなのに、その最も肝心なところが顧みられなくなるのだ。