このように考えると、HISがユニゾに対して敵対的TOBを仕掛けたことは興味深い。見方を変えれば、国内M&A市場も欧米並みの様相を呈しつつあるということだろう。欧米では、企業が成長のために必要だと思った資産あるいは競合企業そのものを買収することは珍しいことではない。それが友好的であろうと、敵対的であろうと、必要なものは手に入れる。それができなければ、企業が持続的な成長を目指すことは難しくなり、反対に買収の対象として見なされる展開もあるだろう。
敵対的TOBを仕掛けるHISの狙い
現在、HISは新しい分野に進出し、収益力を高めようとしている。それには、さまざまな取り組みが考えられる。そのひとつとして、同社はユニゾの資産を取得することを目指している。
もともと、HISは旅行事業を中心に成長を遂げてきた企業だ。2008年の時点で同社の営業利益の97%が旅行事業から獲得されていた。HISは旅行事業に加え、長崎のハウステンボスや「変なホテル」で知られるホテル事業に進出して収益力を高め、その源泉を分散してきた。
HISの収益状況をみると、営業利益に占める旅行事業の割合は59%に低下した。加えて、旅行業界全体が大きく変化している。その背景にはさまざまな要因が考えられる。そのひとつとして、ITプラットフォーマーの登場により、競争が激化していることの影響は大きいだろう。私たちの行動を見ても、HISなどの営業店に行って旅行プランの提案を受けるよりも、インターネット上で航空券や宿泊先などを予約することが増えている。民泊を使う人も多い。世界の旅行業界が大きな変革期にある。
既存の旅行業者にとって、ITプラットフォーマーと提携するにしても、手数料を支払わなければならない。自社でITプラットフォームを一からつくり上げ、それを普及させるにはかなりの経営資源が必要だ。ITプラットフォーマーとの差別化も難しくなるだろう。この状況のなかで旅行事業にこだわり続ける企業は、価格競争に巻き込まれる恐れもある。
HISは従来の延長線上の発想で旅行業周辺の事業強化を重視するのではなく、ファンドビジネスという新しい領域に踏み込もうとしていると考えられる。HISは変なホテルを中心にホテル事業の成長を目指したい。その点において、ユニゾのホテル事業はHISにとって魅力だ。加えて、ユニゾは国内外でオフィスビルの保有・賃貸などを行う不動産事業も展開している。HISが旅行業とのシナジー発揮を目指しつつ、収益源の多角化を進める上で、ユニゾの事業ポートフォリオは魅力的に見える。