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鳥貴族、奇跡の経営 なぜ激安でも本物の味?高コストでも質追求、コストダウン徹底…

文=福井晋/フリーライター
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 東日本大震災(2011年)前のデフレ全盛期にブームを巻き起こした、均一価格の激安居酒屋チェーン。大手が次々と撤退してゆくなかで生き残ったのが、創業期から30年間、280円(税抜き)の均一価格で愚直に味と品質にこだわり続けてきた焼き鳥が看板の居酒屋「鳥貴族」だ。同社はなぜ生き残れたのか。

居場所がなくなった激安居酒屋

 「270円均一」「300円均一」などの「均一激安」の看板を高々と掲げた居酒屋が各地の繁華街で目立つようになったのは、リーマンショック後の09年頃からのことだった。

 その先陣を切ったのは、「270円均一」を打ち出した三光マーケティングフーズの「金の蔵Jr.」。これにコロワイドの「うまいもん 酒場えこひいき」、モンテローザの「268円厨房うちくる」などが追随した。これら激安居酒屋の平均客単価は約2000円で、既存の大手チェーンより1000円ほど安かった。それが魅力でデフレ全盛期の消費者の人気を集め、ワタミなどの大手も次々と激安居酒屋に参入、300円前後均一の激安居酒屋が繁華街に溢れ、居酒屋ブームになった。

 だが、11年3月に発災した東日本大震災以降の消費自粛ムードから、客の居酒屋離れが起きると、激安居酒屋の売り上げも半減、経営が一挙に苦しくなった。そこへ安倍政権の誕生が追討ちをかけた。

 12年末に発足した第二次安倍内閣が打ち出したデフレ脱却政策で景気が回復の兆しを見せると、「安かろう、まずかろう、サービスが悪い」の激安居酒屋は存在感を失い、瞬く間に市場から姿を消していった。残った激安居酒屋チェーンは鳥貴族だけだったが、居酒屋業界関係者によると、鳥貴族以外の激安居酒屋が姿を消した理由は次のようなものだった。

 まずは円安。安倍政権のデフレ脱却策により、それまでの円高が円安に転換したため、海外から調達していた食材価格が高騰。激安価格では最低限の品質のメニューさえ提供できなくなった。デフレ依存の商法が命取りになった。振り返ればデフレ時代の徒花だったといえる。

 次が消費者の行動変化。東日本大震災以降、消費者の行動の二極化が進んだ。製品やサービスにこだわりがなく、とにかく安ければ良いの「安さ納得消費者層」と、自分が気に入った製品やサービスの価値には相応の対価を払う「プレミアム消費者層」の違いが鮮明になってきた。そして、居酒屋市場では、安いだけが取り柄の激安居酒屋にプレミアム消費者層が足を向けなくなった。安さ納得消費者層も、コンビニエンスストアやスーパーの惣菜を買ってきて家で一杯やる「宅飲み」や、牛丼店、ファミレスなどの「ちょい飲み」に流れ激安居酒屋の居場所がなくなった。

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