また、ゆうちょ銀行は銀行セクター、かんぽ生命は保険セクターであり、機関投資家がこの2社を買うということは、他の銀行、保険株の売り要因になるのである。
他の主力銘柄の売り要因に
話はこれだけではない。海外投資家がベンチマークとしている代表的指標にMSCIや、FTSEというのがある。これらは大型のIPOがあった場合、定期的な採用基準を待たず、早期に組み入れるルールがある。具体的にはMSCIが「アーリー・インクルージョン」、FTSEは「ファスト・エントリー」という。
まだ、正式に発表はされていないが、「11月中旬頃の採用が有力視されている」(デリバティブ担当者)。ここでも郵政3社を買い、他の日本株式を売るという動きが生じるのである。証券界が熱望する大型IPOは、実は他の主力銘柄にとっては売り要因になってしまうのである。
それでも郵政3社の株価が穏当にスタートし、その後に上昇すれば、新規の投資家づくりで市場活性化が見込まれる。
ただ、株価は将来の成長を期待して買うものである。たとえばゆうちょ銀行の成長のための方策として預け入れ限度額の引き上げが議論されているが、実現すれば民業圧迫に直結する。民間との連携も始めているが、将来の1株利益の成長は見えにくい。
そもそも、日本郵政の子会社である2社の同時上場は、東証を傘下に収める日本取引所グループ幹部も「ガバナンス上の問題があることは承知している」というほど、問題上場でもあるのだ。仮に株価が初値や公開価格を割り込むことが常態化するようなら、投資家の離反を招き、株式市場のさらなる低迷要因になりかねないのである。
想定株価は日本郵政が1株あたり1350円、ゆうちょ銀行が1400円、かんぽ生命が2150円前後と見られている。いずれも100株単位なので、合計で49万円程度。実際には需要予測などを通じて正式な売り出し価格が決まる。関係者によると、大手証券では3社まとめての購入を勧めているという。
ある証券会社OBはこう警告する。
「証券界はNTT上場の成功事例と当時の全般相場の上昇しか語らないが、NTTドコモの上場(89年10月)直後に日経平均は暴落し、JR東日本(93年10月)上場直後も株式市場は低迷していた」
さまざまな懸念を抱えたまま、郵政3社の上場が目前に迫っている。
(文=編集部)