これに対して、日本のパナソニック、ソニ-、シャ-プは00年代に入っても自前主義と垂直統合によるもの造りから得られる利益思想にこだわった。そのため、これ以降、家電メ-カ-から世界的なヒット商品が開発されることはほとんどなかった。若い頃、ジョブズが独創的なアイデアの斬新さと素晴らしさに憧れたソニ-さえも、79年のウォ-クマン発売以後、世界的なヒット商品が生まれていない。
日本メ-カ-の経営者はいったいいつ、どこで経営判断を誤ったのか? 例えばパナソニックは、02年のV字回復が、かえって世界的変化への対応を遅らせる原因になったという。
10年前のV字回復はただのリストラ効果?
「パナソニックは、02年中村邦夫社長時代に4000億円を超える赤字経営に陥った。本来ならばその時点で、先進国のもの造りの利益の源泉が従来の製造利益から開発利益に変わったことに気づき、企画開発部門により多くの経営資源を投入すべきであった。しかし、同社は相変わらず、主力のテレビ事業でプラズマディスプレイの自社製造にこだわり、自前主義の垂直統合モデルによる利益創出に固執した。同社はその後業績がV字回復したが、それは商品開発による開発利益から得たものでなく、主として大量の人員削減によるコストカット効果に過ぎなかった」(別の業界関係者)
もの造りのビジネスモデルの寿命は、長くても10~20年と言われる。海外の競合企業の社長は、その間に利益の源泉の徹底的な見直しとプロフィットモデル(利益構造)の再構築を行う。その改革が先代社長の否定につながっても躊躇しない。それに対して日本企業の社長は先代社長の否定につながる改革は極力避け、そのためビジネスモデルの見直しや改革も中途半端である。
最近シャ-プと資本業務提携した、台湾・ホンハイ精密工業の郭台銘・董事長(社長)は「日本企業は製造者としての役割から脱却して、研究開発や、ブランド、アイデア、デザインの開発を担うべきだ」と言っている。それに対して、シャ-プの奥田隆司次期社長は先代社長への遠慮があるのか、あくまでも垂直統合モデルにこだわり、「グロ-バルな新しい垂直統合モデルをつくる」と語っている。
世界のもの造りにおける製造拠点が、いまや中国、インド、アジア諸国など新興国にシフトしている。先進国のもの造りで垂直統合モデルが、かつてのような高い利益率を維持する可能性はきわめて低い。前出のホンハイ・郭董事長の言葉のように、開発利益を追求する新たなモデルに、シフトする必要があるのではないか。
(文=野口恒)