1906年(明治39年)に薬問屋「江守薬店」として創業した老舗、江守HDが躍進する原動力となったのが中国だった。化学品や金属資源、合成樹脂、電磁材料など素材関連の取引で右肩上がりの成長を果たした。タブレット端末やスマートフォンの世界的な普及に伴い、レアメタルなどの需要が大幅に伸び、取引額は年を追うごとに増えた。
10年3月期に659億円だった連結売上高は、4年後の14年3月期に2191億円と3.3倍、営業利益は18億円から57億円と3.1倍に拡大した。中国に設立した4社の現地子会社が業績を牽引し、売り上げ全体の7割を中国関連が占めた。株式市場では中国銘柄の1社に数えられた。
江守HDは今年3月16日、14年4月~12月期の連結決算を発表した。中国の主要取引先の大部分を破たん懸念先と区分し、特別損失として462億円の貸倒引当金を計上した。この結果、439億円の最終損失を抱え、234億円の債務超過に陥った。中国子会社で売掛債権に不正会計処理がなされていた。子会社の経営トップだった前総経理(社長)が内部規則に違反し、親族が経営に関与する企業4社との間で、販売した商品を同じ条件で買い戻す「売り戻し取引」を行っていた。この不正が命取りとなった。
江守HDは、表面上は増収・増益の好業績企業だったが、民間調査会社は「要注意企業」と判定していた。営業キャッシュフロー(現金収支)のマイナスが5年間続いていたからだ。本業で現金が失われていた実態が表面化するのに、それほど時間はかからなかった。毎年黒字決算を続けている企業の営業キャッシュフローが5年連続赤字というのは異例。滞留債権がどんどん膨らんでいったことを示しており、資金繰り悪化で破綻する懸念があった。
江守HDはスポンサーに医薬品メーカーの興和グループ会社、興和紡を選定し、5月に主力の江守商事など国内8社を譲渡・売却した。109年の歴史に幕を閉じることになった創業家出身の江守清隆社長は記者会見で、「中国事業の失敗は、悔やんでも悔やみきれない」と悔しさをにじませたという。
江守HD、LIXILグループ、KDDIのつまずきの石になったのは、いずれも中国事業である。海外展開する日本企業に、中国では日本流の性善説に立ったマネジメントが通用しないことを知らしめた。「中国リスクは、これから次々と大口案件で顕在化してくる。これまで発覚したものは氷山の一角にすぎない」(大手企業筋)との見方も広がる。
(文=編集部)