世界から20年遅れの企業体質
実際のところ、世界最大市場のアメリカで、これ以上存在感を落とすわけにはいかない。武田は、ナイコメッドの販路を利用することで、日・米・欧、そして新興国においてほぼ同じ比率の、バランス良い売上高の確保を描く。だが、現状は売り上げのほとんどを日米に頼る。よって、米国での売り上げ低下を早急に補てんする必要があった。
それがURLファーマの買収だ。この企業は、痛風の急性期や予防に使う治療薬「コルクリス」を持つ。2011年の売上高は4億3000万ドル(約340億円)。ブロックバスターの後継とは呼べないが、アメリカでも痛風患者は増えており、成長市場の1つといっていい。武田は、帝人ファーマから導入した痛風治療薬「フェブリク」をアメリカで販売しており、治療薬を増やすことで、痛風領域を強化できるとしている。アナリストや製薬企業関係者も、「シナジーが見込める」「コルクリスは成分が古いのに、なぜかライバルが見当たらない。業界全体を見渡しても競合薬品はなく、良い買い物をした」と好感している。
前出の米インテリキンの買収は、かねてからの「がん領域の創薬力を高める」という路線を踏襲したものだ。武田は08年に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを約88億ドル(約7000億円)で買収するなど、がん創薬に必要な技術や開発品を買収で手にしている。「あの会社は、足りないものは何でも買う」(業界関係者)と指摘される通り、00年代に入ってからは、創薬技術、販路、がん分野の新薬を買収で獲得してきた。今後も買収の手を緩めず、あらゆるチャンスを探るとしている。
こうした動きの理由はひとえに、自力で創薬する力が落ちてきたことが理由だ。新薬開発には巨額な研究開発投資が必要とされるが、アメリカのファイザーやメルク、フランスのサノフィ・アベンティスなどの巨大製薬企業と比べると、投資額で見劣りするのは否定できない。
現在の状況は10年以上も前に予想できたことだ。ある外資系製薬会社のトップは、武田の状況に厳しい言葉を投げかける。
「日本の製薬企業全体にいえることは、過去のブロックバスターという成功体験のため、新たな新薬創出への企業体質の変革が20年は遅れている。海外競合他社の動きと比べ、買収もタイミングが遅い」――現在、活発に続いている買収が成功か否か、結果は短期的な売り上げ推移より、この先10年の新薬ラインアップに表れるだろう。
(文=草野 楽/メディカルジャーナリスト)