そして08年、この指標に基づき、問題となった大規模リストラが行われることになる。
つまり、PBCで「3」「4」と下位評価された社員、1,500人を対象にしたものだ。同社ではそれまでにもリストラを必要に応じて行っていたが、08年のケースでは「前年同様に高収益を確保している中での、正社員への大規模リストラ」であったため、世間の注目を集めた。
結局、会社として業績を「回復」させることはできなかったが、リストラは断行でき、かろうじて「利益を死守」することはできたのである。
では、同社のリストラというのはどのようなものなのか?
ここに実態を詳説しよう。08年のリストラ時、同社の各部門長宛に配布された内部資料「Resource Action Program」(下位15%、「3」「4」という低評価となった社員を退職に追い込むための指示文書)の冒頭には、このように書かれている。
「予定数の達成が、我々リーダー一人ひとりのAccountability(結果責任)となります」
つまり、「売上ノルマ」ならぬ「首切りノルマ」を達成せよ、というお達しなのだ。そして、このマニュアルに記された「社員を退職に追い込む方法」とは次のとおりである。
(1)まず会社がターゲット(対象者)を選定する
(2)退職強要面談にあたる面接者をトレーニングする
(3)ターゲットと「初回面談」を行う
(4)必要に応じて面談を重ねる
(5)社長臨席会議で、進捗状況を確認
(6)「退職意思確認」を経て「退職」へと追い込む
指示文書には、「あくまで本人の“自由意思”に基づいて決断するように、コミュニケーションしてください」と書かれているが、手順書を見る限り、自由意思で選べるゴールは「退職」しか存在しない。
従業員に退職を促すことを「退職勧奨」というが、法的には「人事評価が低かった」という理由で退職勧奨すること自体に問題はない。そして従業員側でも、退職勧奨を受けたからといって、それに従わなければならないという義務もない。つまり、退職勧奨は「やるのも自由」だし、「断るのも自由」なのである。問題になるのは、「本人が勧奨を断った後も、執拗に退職を迫る」といった行為があった場合だ。これは違法である。
「執拗」というのがどんなレベルなのか、裁判でも判断が分かれるところである。ちなみに同社で08年に行われたリストラで、従業員が「執拗に迫られた」として提訴していた件については、先ごろ東京地裁の判断で「違法性はない」となった。
●リストラ強要面談の実態
面談を受けた経験者によると、面談で次のような話を繰り返しされることでプレッシャーが与えられていたようだ。果たして読者の皆さんは、これを「執拗ではなく、違法性がない」と捉えられるだろうか?
「あなたが今やっている仕事は、来月からもうないよ」
「去年からのあなたの業績が、まるで見えない。毎日何しに出勤しているんだ?」
「あなたの低い業績について、他のメンバーがなんて噂しているか知ってるのか?」
「今後何年居残っても、ずっと永久にPBCは3以下しかつかない。この先、毎年減給の繰り返しになるぞ」
「いくら探しても、あなたを引き取るマネジャーがいない。長い間、お疲れ様でした」
「あなた自身の今後のためにも、社外でのキャリアを探したほうが絶対いいよ」
「明日、あなたの両親/妻にPBCの現況と今後のキャリアについて電話するけど、言いたいことは?」
「残っても降格・減給にもなるし、格段に厳しいノルマや処遇になるのがもう見えている」
「いまどき、これほどの割増金が出るのは当社くらいだ。しかも、今回きり最後のチャンス」
「明日、○○という会社に面接にいってきなさい。これは業務命令です」
「社外でのキャリアを探すほうが、あなたの場合、圧倒的に最善の決断だ」